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祟られ屋シリーズ1





祟られ屋シリーズ2





祟られ屋シリーズ3






【祟られ屋シリーズ第1話】 傷
以前、俺は韓国人の「祟られ屋」の所に半年ほどいた事がある。

その「祟られ屋」を仮に「マサさん」と呼ぶことにする。
マサさんは10代の頃に日本に渡ってきた、在日30年以上になる韓国人。
韓国人には珍しい「二文字姓」の本名を持つ一族の出身で、
在日朝鮮人実業家に呼び寄せられた先代の「拝み屋」だった父親に付いて
来日したらしい。
「マサさん」というのは、その風貌から。
現役時代のマサ斎藤というプロレスラーに似ているから。

俺はある事件で「祟り」に遭い、命を落としそうになったことがある。
その事件が生涯初めての霊体験であり、マサさんと知り合うきっかけになった。
今日はその事件について書きたいと思う。


俺の古くからの友人にPと言う在日朝鮮人の男がいる。
Pの実家は、焼肉屋にラブホテル、風俗店や金貸しを営む資産家だった。
P家の経営するラブホはカラオケやゲーム、ルームサービスも充実して流行っていた。

「事件」があったのは、そんなP家の経営するラブホの新店舗。
新店舗もオープン当初は立地条件も良く流行っていたらしい。
しかし、ある時を境に客足がガクッと落ち込んでしまった。
まあ、お約束ってやつかな。
どうもそのホテル、「出る」らしいんだ。

そのホテルに出るだけじゃなく、
Pの実家の婆さんが亡くなり、お袋さんは重度の鬱病、親父さんも胃癌になると
いった具合に身内の不幸が重なった。

地元の商店街ではPの家が祟られているという噂が流れていたようだ。
そんな地元の噂を聞きつけたのか、拝み屋だか霊媒師だかのオバサンが
Pのところに売り込みに来たらしい。

そのオバサンはPらのコミュニティーでは金には汚いけれど
「本物」だということで結構有名な人だったようだ。
自信たっぷりに「お前の所に憑いている悪霊を祓ってやる。
失敗したら金は要らない。成功したら500万払え」と言って来たらしい。

P本人は信心深いタマではなく、ハナッから相手にする気はなかった。
タカリの一種くらいにしか見ていなかった。

しかし、Pのオヤジさんは病気ですっかり参っていたせいもあって、
このお祓いの話に乗り気だったらしい。

それでも500万という金はデカイ。
社長はオヤジさんだが、馬鹿な無駄金を使うのを黙って見ている訳には行かない。
そこで、Pは俺に「報酬10万に女も付ける。
出るという噂の部屋に一晩泊まってみてくれ」と頼んできた。

ガキの頃から知っている俺が泊まって、
何もなかったと言えばアボジも納得するだろうと。
万が一、本当に出たらオバサンにお払いを頼む。
出なければシカトして500万は他のラブホの改装の足しにでもする。
俺はオカルトネタは大好きだけれど、霊感って奴は皆無。
心霊スポット巡りも嫌いじゃないので快諾した。


Pに頼まれた翌週末、午後8時過ぎくらいにPの知り合いが経営する韓デリの
女の子と落ち合って、問題のホテルの508号室(角部屋)に入った。

部屋に入った時点では霊感ゼロの俺が感じるものは特になかった。
ただ、デリ嬢のユキちゃん(ほしのあき似、Fカップ美乳!)はしきりに
「寒い」と言っていた。
夏とはいえキャミ姿で肩を出した服装。
「冷房がきついのかな」位にしか思わなかった。
エアコンを止めてもユキちゃんが「寒い」と言っていたので、
俺たちはバスタブに湯を溜めて風呂に入った。
バスルームでいちゃつきながら口で1発抜いてもらって、ベッドで3発やった。
部屋にゴムは2個しかなかったので3発目は生だった。
ユキちゃんはスケベですごいテクニシャン。
3時間以上頑張って流石に疲れて、1時くらいには眠ってしまった。


どれくらい眠っただろうか。
俺は、耳元で爪を切るような「パチン、パチン」と言う音を聞いて目が覚めた。
隣で眠っているはずのユキちゃんがいない。
ソファーの上に畳んであった服もバッグもない。
俺が寝ている間に帰ったのか?
オールナイトで朝食も一緒に食べに行くはずったのに…

俺はタバコに火を付けようとしたが、オイル切れという訳でも、
石がなくなった訳でもないのにジッポに火がつかない。
部屋にあった紙マッチも湿ってしまっているのか火が付かない。
俺はタバコを戻して回りを見渡した。

部屋の雰囲気が違う。
物の配置は変わらないのだけれど、全てが色褪せて古ぼけた感じ。
それに微かに匂う土っぽい臭い…
俺は全身に嫌な汗をかいていた。
体が異様に重い。
目覚ましに熱いシャワーでも浴びようと思って、俺はバスルームに入った。
シャワーの蛇口をひねる。
しかし、お湯は出てこない。
「ゴボゴボ」と言う音がして、ドブが腐ったような臭いがしてきた。
俺は内線でフロントに「シャワーが壊れているみたいなのだけれど」と電話した。
フロントのオバサンは「今行きます」と答えた。


俺は腰にバスタオルを巻いた状態で洗面台で顔を洗っていた。
すると、入り口のドアをノックする音がする。
ハンドタオルで顔を拭きながらドアの方を見ると、
そこには全裸のユキちゃんが立っていた。

ユキちゃんの様子がおかしい。
目が黒目だけ?で真っ黒。
そして、左手には白鞘の日本刀を持っている。
「ユキちゃん?」と声をかけても無言。そのまま迫ってくる。
そして、刀を抜いた。やばい!
俺は部屋に退がりテーブルの上に合ったアルミの灰皿をユキの顔面に投げつけた。
しかし、当らない。
いや、すりぬけた?
今度は胸元にジッポを投げつける。
しかし、これもすり抜けて?入り口のドアに当たり「ガンッ」と音を立てる。
ユキは刀を上段から大きく振り下ろした。
かわそうにも体が重くて思うように動かない。
俺は左手で顔面を守った。
ガツッ、どんっ!
前腕の半ばで切断された俺の左腕が床に転がる。
俺は小便を漏らしながら声にならない悲鳴を上げた。


床にめり込んだ切っ先を抜いて構えたユキは、更に左の肩口に刀を振り下ろす。
左肩から鳩尾辺りまで切り裂かれる。
俺はユキに体当たりしてドアの方に走る。
血に滑って足を取られながら逃げたけれど背中を切られた。
ドアを開けて外に逃げようとしたが鍵が閉まっている!俺は後を振り返った。
その瞬間、ユキが刀を振り下ろした。
首に鈍い衝撃を感じ、次の瞬間ゴンッという音と共におでこに強い衝撃と痛みを感じた。
シューという音と生暖かい液体の感触を右の頬に感じながら、俺は意識を失った。


俺は頭の先で「ガリガリ」と言う音を聞いて目が覚めた。
体中が痛い。
頭も酷い二日酔いのようにガンガンする。
音のする方をみるとユキがドアをガリガリ引っ掻いていた。
何時間そうしていたのかは知らないけれど、両手の爪は剥がれて血まみれ。
ドアには血の跡がいっぱい付いていた。

俺はユキの肩を揺すって「ユキちゃん」と声をかけたけれども、
空ろな目で朝鮮語らしい言葉でブツブツ言っているだけで無反応。
俺はユキを抱きかかえてベッドに運んだ。
ベッドにユキを横たえると俺は部屋を見渡した。
勿論、俺の首も左腕も付いてる。
部屋の内装も真新しい。
しかし、俺は恐怖に震えていた。
バスルームではシャワーが出しっぱなしになっていた。
入り口のドアの手前には俺が投げた灰皿とジッポライター。
ベッドの手前のフローリングの床には小便の水溜り…そして真新しい傷…
血痕とユキの持っていた刀は無かったが。


俺はPに携帯で連絡を入れた。
Pは1時間ほどで人を連れて来るという。
とりあえず俺はユキに服を着せ、シャワーを浴びた。
熱い湯を体がふやけそうなくらいに浴び続けた。
シャワーを出て洗面台で自分の姿を見た俺はまた凍りついた。
首と左肩から鳩尾にかけて幅5ミリ位の線状のどす黒い痣になっていた。
左腕も。
背中を鏡に映すと背中にもあった。
いずれも昨晩ユキに刀で切られた場所だ。

約束の時間に30分ほど遅れてPはデリヘルの店長とホテルの支配人?、
若い男2人を連れてやってきた。
支配人はドアの爪痕を見て青い顔をして無言で突っ立っていた。
デリヘルの店長はギャーギャー喚いていた。
ユキは頭からタオルケットを掛けられ、
2人の若い男に支えられながら駐車場へ向かった。
俺は、Pの車を運転しながら
(Pは物凄く酒臭かった。泥酔状態で運転してくるコイツの方が幽霊よりも怖い!)
昨晩起こった出来事をPに話し、お祓いすることを強く勧めた。
流石のPも俺の首と腕の痣を目にして納得したようだった。


1週間ほどしてPから連絡があった。
次の月曜の晩にお払いをする。
現場を見るついでに俺の話しも直接聞きたいらしいから、
霊媒師のオバサンに会って欲しいということだった。
俺の方も異存は無かった。
俺は約束の時間に待ち合わせの場所に行った。

霊媒師のオバサンは50歳ということだったが、割と綺麗な人だった。
Pに「ユキはどうした?」と聞くと、
Pは「ぶっ壊れて、もうダメみたい。韓国から家族が迎えに来るらしい」
オバサンは俺の向かいの席に座り、俺の両手を握って俺の目を瞬きもしないで見つめた。
10分くらいそうしたか、無言で手を離すと、Pの家族も見たいと言う。
俺たちはPの車に乗ってPの実家に向かった。
オバサンはPの家の中を見て回り、俺のときと同じようにPのオヤジさんとお袋さんの手を握って顔を凝視した。
霊媒師のオバサンは、俺のときよりも更に険しい顔をしてPに
「問題の部屋に連れて行って」と言った。
俺たちはPの車に乗って例のホテルに向かった。


車中では3人とも無言だった。
後部座席のオバサンは水晶の数珠を手に持って声を出さずに唇だけでブツブツ
何かを唱えていた。
15分ほどで俺たちはホテルに着いた。
俺たちは車から降りた。

後部座席のドアが開いてオバサンが車から降りた瞬間、
オバサンが手にしていた数珠がパーンと弾け飛んだ。
オバサンは顔に汗をびっしょりかいて怯えた様子で
「ごめんなさい、これは私の手には負えない。気の毒だけれど、ごめんなさい」
と言って大通りの方に足早に向かって行った。
するとPは物凄い剣幕で「ふざけるな!金はいくらでも出すから何とかしてくれよ!」
と叫びながらオバサンを追った。
オバサンはPを無視して早足で歩く。
すがり付くようにPは朝鮮語で泣きそうな声で喚きたてた。
しかし、オバサンはタクシーを捕まえて、Pを振り切って去って行ってしまった。


それから1ヶ月ほど経ったか?
俺は困り果てていた。
霊現象の類は無かったものの、ホテルで付いた痣が膿んで酷い事になっていた。
始めは化膿したニキビみたいなポツポツが痣の線に沿って出来る感じで、
ちょっと痒いくらいだったが、
やがてニキビは潰れ爛れて、傷は深くなって行った。
ドロドロに膿んで痛みも酷かった。
皮膚科に通って抗生物質などの内服薬とステロイド系の軟膏を塗ったが
全く効果は無かった。
そんな時にPから連絡があった。
今すぐ会いたいと。


たった1ヶ月会わなかっただけなのに、Pの姿は変わり果てていた。
Pは安田大サーカスのクロちゃんに似たピザだったが、
別人のようにゲッソリとやつれていた。
肌の色はドス黒い土気色で、白髪が一気に増え、円形脱毛症だらけになっていた。
Pが消え入りそうな声で「よう」と声をかけてきた。
俺が「どうしちゃったんだよ?」と聞くとPは答えた。

Pは俺をホテルに迎えにいった晩から今日まで
「あの部屋で」「毎晩」「斬り殺されている」らしい。

殺されて次に目が覚めたときには自分の部屋にいるのだけれど、
今いる自分の部屋より「あの」ホテルの部屋での出来事の方がリアルなのだと言う。
Pの話を聞いて俺もあの晩のことを思い出して嫌な汗をかいた。

変わり果てたPの様子、霊媒師に逃げられた晩の必死な様子にも納得がいった。
そして、1ヶ月もの間、毎晩あの恐怖に晒されながら正気?を保っているPの
精神力に驚きを隠せなかった。
俺はPに「御祓いはしなかったのか?」と聞いた。
Pは答えた
「祈祷師、拝み屋の類も色々回ったけど、これを見ただけで追い払われたよ。
あのババアに逃げられたってだけで会ってももらえないのが殆どだったけれどな」
そう言うと、Pは着ていたTシャツを脱いだ。
Pの体には俺と同じ、夥しい数の「傷」があった。
膿んで深くなったもの、まだ痣の段階のもの…


Pの話だと、俺たちの傷は医者に治せる類のものではないらしい。
放って置けば傷はどんどん深くなり、やがては死に至ると…
そして、「祟り」の性質から、普通の拝み屋や祈祷師には手は出せないらしい。
だが、Pのオヤジさん、商工会の会長の伝で朝鮮人の起した祟りや呪いといった
トラブルを解決してくれる「始末屋」がいるらしい。
Pはその始末屋のところに一緒に来いと言う。
そこに行けば3ヶ月から半年は戻って来れないという。

俺は迷った。
しかし、あのホテルでの出来事や傷の事、Pの様子から俺は腹を括った。
俺は勤め先に辞表を出して、Pと共に迎えの車に乗った。

その紹介された「始末屋」がマサさんだった。

半年間、俺たちはマサさんの下で過ごし、「機」を待った。
色々と恐ろしい思いもしたが、半年後、事件は解決した。
事件の解決についてはマサさんの下での生活の話しを読んでもらわなければ
判りにくいと思う。 


迎えの車が来る前に、俺たちは付き添いのキムさんの用意してくれた
黒いスウェットのパンツとトレーナー、サンダル履きの身一つの状態にされた。
そしてキムさんの車に乗って出発。

高速に乗って二つ先のインターで降りた。
車はインター近くの大型電気店の駐車場に入った。
キムさんは俺たちに便所に行って来いと言った。
車に戻ると後部座席に座らされ、薬を飲むように言われた。
睡眠薬だと言う。
俺たちはキムさんの言葉に従った。薬を飲んで暫くすると睡魔が襲ってきた。

目が覚めたとき、俺たちは工事現場などのプレハブ事務所のような建物の床に
転がされていた。
少し離れた所に体格の良い40代位の男が胡坐をかいて座っていた。
この男がマサさんだった。

俺が体を起すとマサさんは無言で冷蔵庫を開けペットボトルの水をわたした。
喉が焼け付くように渇いていた俺は2L入りのペットボトルの半分以上を
一気に飲み干した。
やがてPも目を覚ました。
Pが水を飲み終わるとマサさんが始めて口を開いた。

マサ
「カンさんから話しは聞いている。私の方で調べて状況も判っている。
私の指示には絶対に従ってもらうが、判らない事があれば聞いてくれ。
長い付き合いになる、遠慮はしなくていい。
仕事に差し支えない範囲で要望も聞こう」

俺「随分と回りくどい連れてこられ方をしたが、何か意味はあるのか?」

マサ
君たちに取り憑いているのは一種の生霊だ。
そっちの兄さんの実家とホテルの部屋を浄化した水を君達に飲んでもらった。
キムさんの家に泊まって飯を食っただろう?
ガッチリと取り憑いてはいるが、念には念をってやつだ」

P「ふざけるな、何でそんな真似を!」

マサ
「生霊って奴は案外視野が狭い。
取り憑いたら人にせよ場所にせよ、それしか目に入らない。
君等がキムさんの所にいる間にホテルと実家に結界を結んだ。
他に行き場のない生霊は君たちに取り付いているしかないが、
君達がここに来るまでの道程も、帰る道も判らないように、
生霊にも間の道はわからない。
とりあえず呪いも祟りも君達止まりで、
君等が取り殺されない限りは他に害は及ばないよ。
家族が助かったんだ、問題ないだろう?」

…あまりの言葉に俺たちは絶句してしまった。…問題大有りだろ!

言葉を失ってしまった俺たちにマサさんは服を脱げと言った。
もう、まな板の上の鯉の心境。
俺たちはマサさんの言葉に従った。

マサさんはバリカンと剃刀を持ってきて、俺たちの髪の毛と眉毛を剃り落とした。
そして、筆と赤黒い酢のような臭いのする液体を持ってきて、
腹ばいに寝かせた俺たちの背中に何かを書き出した。
乾いた文字を見ると十字型に並べられた5文字の梵字だった。

P「何ですか、これは?」

マサ
「耳無し坊一の話は知っているかい?」

俺「平家の亡霊から姿を隠す為に全身に経文を書いたのでしたよね?
これは俺達に取り憑いた生霊とやらから身を隠す呪文か何かですか?」

マサ
「ちょっと違うね。まあすぐに判る。
この液体は皮膚に付くとちょっとやそっとでは落ちないけれど、
これから行く所では護符が消えると命の保障は出来ないよ。
薄くなったらすぐに書いてあげるから気を付けてね」

マサさんは俺たちの髪の毛とシェービングフォームを拭き取ったタオル、
着てきた服とサンダルを火の入った焼却炉に放り込むと、
腰にタオルを巻いただけの俺たちを車に乗せた。
 
車に乗ると俺達はアイマスクをさせられた。
暫く走ると舗装道路ではなくなったのだろう、車は酷く揺れた。
砂利道に入って5分もしないうちに車は止まった。

マサさんは俺達に少し待てと言った。
車外からはハンマーで鉄を打つような音が聞こえてきた。
実際、長さ50cm、直径5cm程の鉄の杭を地面に打ったのだという。

鉄杭を打つ事で地脈を断ち切り、外界とこの敷地を切り離しているのだと言う。
この敷地にはこの様な鉄杭が他に7本打たれているとマサさんは語った。
この敷地自体が一種の結界なのだと言う。
俺達はこの敷地から一歩たりとも足を踏み出す事を禁じられた。


敷地の中には普通の民家と大きな倉庫のような建物があった。
民家と倉庫の間に立って、マサさんが敷地の奥の方を指差した。
岩の低い崖の手前に小さな井戸のようなものがある。

実際それは深い井戸らしい。
直径は60cm程でさほど大きくはない。
その上には一抱えほどもある黒くて丸い、滑らかな表面をした、
直径80cmほどの天然石で蓋がしてあった。

井戸の周りには、井戸を中心に直径180cmの円上に
八方に先程と同じ鉄杭が打たれていると言う。
マサさんは井戸には絶対に近づくな、出来る限り井戸を見るな、
井戸のことを考えるなと言った。
井戸に引かれるのだと言う。
そして、もし万が一、井戸に引かれる事があっても鉄杭の結界の中に入るなという。
Pがあれは何だと尋ねた。
マサさんはこう答えた。「地獄の入り口だ」と。

季節はまだかなり暑い時期だった。
山に囲まれてはいるが、それほど山奥と言う感じではない。
まだ日も高く、日差しも強い。
しかし、この敷地に入って車から降りた時から
何かゾクッとする寒気のようなものを感じた。
流石に、俺にもPにも判っていた。
この土地の「寒気」の中心があの井戸であることが…

まあ、この時には聞かなくても判っていたのだが、俺はマサさんに聞いた。

「背中の護符はあの井戸の中身から俺達の身を守るものなのですね?」

マサ
「そうだ。けれども、あの井戸があるから、
君らに憑いた悪霊も君達に手出しする事は出来ないのだ。
君達を取り殺して、結界の中で一瞬でもあの井戸の前に晒されれば、
たちまち取り込まれて、井戸の中の悪霊と一体化してしまうからね。
井戸の悪霊は君達の中の悪霊を取り込もうとして引き付ける。
一緒に引き込まれないように気を付けてくれ」

民家はマサさんの居宅だった。
家の中で俺たちは藍染めの作務衣のような服を渡されて着た。
マサさんは妙に薬臭いお茶を飲ませてから俺達に言った。

「その傷を何とかしなくちゃな」

傷の事を言われて始めて気がついたのだが、
不思議なことに、この禍々しい土地に入ってから、
あれほど痛んだ傷の痛みはそれほどでもなくなっていた。
俺はそのことをマサさんに話した。
Pも「実は俺もだ」といった。

マサさんは言った。
本来、霊には生霊も死霊も生きている人間の肉体を直接傷付ける力はない。
殆どが怖い「雰囲気」を作るだけ。
相当強い「念」を持った霊でも「幻影」を見せるのが精一杯なのだと言う。

「祟り」で病気になったり、事故に遭ったりするのは
祟られた人間の精神に起因する。
「雰囲気」に飲み込まれた人が抱いた「恐怖心」が核になり、
雪だるまのように負の想念が大きくなって、
そのストレスにより精神や肉体、或いはその行動に変調を来した状態が
「霊障」と呼ばれるものの大部分なのだと言う。

こういった「霊障」の御祓いは、所謂「霊能力者」や正しい儀式でなくとも、
「御祓い」を受ける被験者に信じ込ませる事が出来れば誰にでも出来る
催眠術の類らしい。
しかし、俺達の場合は違うのだと言う。


マサさんは俺がユキに斬られた晩の話を聞き、ホテルの部屋を確認したという。
そして、フローリングの床を確認した。
ユキが刀の切っ先をめり込ませた作った傷があり、
俺が投げたライターか灰皿が当って出来たであろう部屋の入り口のドアの
小さな凹みと塗装のはがれも発見したと言う。
出しっぱなしになっていたシャワーや小便の水溜りがあった話から、
俺達の傷は所謂「霊体」に深手を負わされ、
それが肉体に反映したものだと判断したのだと言う。
あの晩の出来事も、Pの体験も夢ではなかったのだ!
そして、そのことから、俺たちの霊体を斬った生霊の背後には
「神」とでも言うべき霊格の高い存在が付いているのが判るのだと言う。
でなければ、肉体に外傷として現れるような深手を生きた人間の霊体に
負わせることは不可能なのだ。


こういった霊格の高い存在が背後にある場合、祟られたのが朝鮮人の場合、
ごく例外的な場合を除いて通常の除霊も浄霊も不可能なのだと言う。
朝鮮人は「神」の助力を、特に日本国内では得られないのだという。

「個」や「家」ではなく、「血族」を重視する朝鮮人は
祖先の「善業」も「悪業」も強くその子孫が受け継ぐのだそうだ。
朝鮮は遥かな過去から大陸の歴代王朝や日本の支配を受けてきた。
そして、同族を蹴落としながら支配者に取り入りつつ、
その支配者に呪詛を仕掛け続けてきたのだ。

「恨」という朝鮮人の心性を表す言葉は、朝鮮人の宿業でもあるのだ。
自らを「神」として奉る民族や国家、王朝を呪う者に助力する「神」はいない。
そのような者への助力を頼めば逆にその神の逆鱗に触れかねない。
Pが、御祓いを頼みに行った祈祷師たちに悉く拒絶されたのはその為だったらしい。
「まあ、そのお陰で私の商売も成り立つのだけどね」とマサさんは笑った。

朝鮮人を守ってくれる神様はいないのですか?とPが聞いた。
マサさん曰く、「神」の助力を得るには長い時間をかけた「信仰」ってヤツが
必要なのだそうだ。
いや、長い時間を重ねた信仰が「神」を作ると言ってもいい。

朝鮮は支配王朝が変わるたびに文化を変え、信仰まで変えてきた。
しかも、同族同士で呪詛を掛け合っても来た。
民族の「神」がいない訳じゃないけれど、その霊格は高くなりようがない
儒教は厳密な意味で宗教ではない。
キリストは「神」だけれど、孔子は「神」ではない。
日本や中国と同じ神仏の偶像はいっぱいあるけれど「神」には「なっていない」。
だから朝鮮では、生贄を利用する蟲毒のような「呪詛」、
地脈や方位を巧みに操って大地の「気」を利用する「風水」が発達したのだという。
そして、民族全体が共通して信仰する霊格或いは神格の高い「神」を持たないが故に、
生きた人間が神を僭称し、時に多くの民衆の信仰を集めてしまうのが朝鮮の病弊なのだ。

朝鮮人は
ある意味、異常な民族なのだという。

話しは戻って、何故俺達の「致命傷」とも言える「霊体」の傷は、
この禍々しい土地で癒えつつあるのか?
マサさんは「私の推測も入るが」と断りつつ語った。
俺たちに憑いている悪霊を「生霊」と判断したのは、
マサさんに繋ぎを付けてくれた商工会の調べで、
あのラブホテルのある土地の元の住人を探し当てたからだ。

あの土地に住んでいた住人はバブル期に作った借金が元で、
抵当に入っていた不動産を失った。
その家は江戸時代から続く旧家だったらしい。
建物を取り壊した工務店の話では祠や神社の類はなかったが、
家の中に立派な神棚があったらしい。
建物は抵当割れで解体費用も出ず塩漬けされ、
P家が買い取りラブホテルを立てるまで放置されていたそうだ。

そして、住人は意外な所にいた。
その家のすぐ近所の賃貸マンションに、元の持ち主の一人娘が住んでいた。
娘は両親が死亡する前に連帯保証人となっており、多額の借金を返す為に、
なんとP家の経営する風俗店で働いていたのだ!
女のマンションの部屋からは問題のラブホは良く見えるらしい…

マサさんは「あくまでも推測だが」おそらく、
その女の家では神社か祠を代々祀っていたのだろう。
刀を祀った祠だったのではないか?
それが風水害や地震・戦災などで喪われ、女の両親、
あるいはそれ以前の代の家の者の手によって神棚に移し替えられ
祀られていたのだろう。

その刀ないし「神」は長い年月をかけて祀られ続ける事で
その家の「守護神」となっていたのであろう。
生霊として俺達に「封じられている」娘は、
俺たちが死ぬと井戸の悪霊に吸収されて確実に命を失うだろう。
そうすれば他に「祀る者」を持たない、祠や神棚といった形も失った
「守護神」は時間の長短はあってもやがては消え去ることになる。

また、本件においては「守護神」と「生霊」が一体化しているようにも見える。
そうすると娘の霊と共に「井戸の悪霊」に飲み込まれる可能性もある。
それを避ける為に俺達の傷を癒した。
俺達の傷は「守護神」の力によるもの。治すのは雑作もないと…

マサさんの話の宗教観ないし心霊観は正直、俺にはピンと来なかった。
ここに書いた話も正確に再現できているのか心許ない。
ただ、傷が楽になってきているのは確かなので、そんなものなのか、
そんな考え方もあるのだなと思った。

マサさんの話では、「内」の傷が治っても「外」の傷はそのままでは治らない。
そのまま放置すると「井戸」の影響で「外」の傷から「内」を侵されてしまう。
傷は早急に治さなければならない。

マサさんは家の表に出て一斗缶の中に火を起し、
鉄の中華鍋のようなものを炙り始めた。
やがて鍋が焼け、鉄の焼ける独特なにおいがしてくると、
鍋の中に白い粉末を入れた。
石臼で擦った「塩」らしい。
それを一斗缶の火が消えるまで何かを唱えながら混ぜ続けた。
火が消えると黄色い粉末を一つまみ塩に振りかけた。「硫黄」だという。
鍋を缶から下ろすとペットボトルに入った水を鍋の中に注いだ。
塩の量が多くて全然溶け切っていなかった。
マサさんは俺達に服を脱げと言った。
猛烈に嫌な予感がした。そして、予感は的中した。

マサさんは、手で掬った「塩」を俺達の傷に塗りつけ、物凄い力で擦りつけた。
湿って乾き切っていない瘡蓋とも膿みの塊ともつかないものが剥がし取られた。
酷くしみる。焼けるようだ。
傷の数も面積も大きいPは目を真っ赤にして声も出せないようだ。
マサさんは鉄鍋の中身がなくなるまで交互に擦りこみ続けた。
その晩はひりひりと痛んで眠る事も出来なかったが、
あれほど治らなかった傷は3日ほどで瘡蓋が張り、
更に1週間ほどで綺麗に治ってしまった。

マサさんの話によると、死霊や自縛霊といったものは、
鉄杭で七方の地脈を絶って、一方向を開けて、霊格や神格の高い神社仏閣との
間の地脈を開いて繋げる事で、1年ほどで浄化されてしまうらしい。
浄化された土地に、お寺から貰ってきた護摩や線香の灰や神社から貰ってきた
水を撒いて鉄杭を抜けば「普通の」土地になるらしい。

呪詛には呪詛返しの方法があり、生霊は、祟っている方か祟られている方の
いずれかが死ねばそれまで(…なんだかな~)。
色々方法があるらしいが、人形などの身代わりと火を使う方法が
良く使われるのだという。
この辺りは日本も朝鮮もやり方は大差ないらしい。

元々、日本の神道の形式と朝鮮の呪術や儀式の形式は
良く似たもの多いのだそうだ。
故に日本の祈祷師や拝み屋と朝鮮のそれは
素人目には区別がつかないことも多いのだという。
俺にはどちらも良く判らないのだが。
生霊が「場所」に憑くというのは比較的、珍しいらしいのだけれども、
多くの場合は上記の自縛霊に用いた方法と人形を用いた方法の合わせ技で
浄化できるのだそうだ。

いずれにしても、これらはマサさんの仕事の範疇ではないらしい。
マサさんが扱うのは、儀式を踏まないで神社や祠を破壊して
「神」を怒らせてしまったり、
盗まれてきた神社の「御神体」や寺の「ご本尊」を知らずに買ってしまって、
「一族」が根絶やしにされるような祟りを受けた場合だそうだ。

話を聞いた時「そんな罰当たりな真似をする奴がいるのか?」と聞いたら、
朝鮮人には神社仏閣に盗みに入って盗品を売り捌いたり、
神社や祠に火を放ったり破壊したりする輩が今でも少なからずいるそうだ。

参考
神社仏閣被害一覧1













神社仏閣被害一覧2
























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神社仏閣被害一覧4











神社仏閣被害一覧3



神社仏閣被害一覧5


































自分の中に「神」を持たない故に、他人や他民族の宗教や信仰に対する配慮や、
その対象に対する「畏れ」に著しく欠けているのだと言う。
「畏れ」のあるなしに関わらず、そんな真似をすれば日本人でも地獄行き確実で
救い様がないけれど、先日書いたように高位の「神」の助力が得られない
朝鮮人の場合は更に深刻で、一族全てが祟られて絶えてしまう危険があるらしい。

一族を絶やすようなレベルの祟りになると地脈や鉄杭を用いた方法では
浄化以前の「鎮める」段階で100年、200年といった時間がかかってしまうし、
一族に祟りが行き渡り絶えてしまう。
特に祟りの元となったもの、祈りや信仰の対象であったものを「物」として
「金で買う」と言う行為は、非常に強い祟りとなるそうだ。

霊力の高い品物だと移動する先々で祟りを振りまき、「売買」される事により
纏った「穢れ」により、非常に性質の悪い悪霊となってしまうのだそうだ。
だから、出所不明のアンティークの品物、特に宗教に関わる品物は
売り買いしない方が良いらしい。


マサさんが「祟られ屋」だと言うのは、金銭やその他の「対価」を受け取って
儀式(内容は判らない)を行い、その「一族」の代わりにマサさんの「一族」が
祟りを受けるからだ。

マサさんと例の「井戸」は「繋がって」いて、マサさんを通して井戸に送り込まれた
「祟り神」は祟りや呪いだけを井戸の「悪霊」に吸い取られ、
結界の外に拡散してゆくのだと言う。
(井戸の中にはマサさんの父親の遺髪と血、マサさんの髪の毛と血と臍の緒が
入っているらしい。これは聞き出すのに苦労した)
鉄杭の結界は「神」や「清いもの」は外に通すけれども、
「穢れ」や「悪霊」は外へは通さない(外からは引き寄せているらしい)。
簡単に言うとそんな原理らしい。


マサさんがPと俺を呼び寄せたのは、Pの一族(父方)は
朝鮮半島にいた親類縁者が朝鮮戦争で死に絶えてしまっており、
Pは一人っ子で、Pが死ぬとP一族が絶えてしまうかららしい
(母方の一族、嫁いで家を出た女は関係ないそうだ)。

俺がPと同様に呪われた原因は、
Pから祟りに関連して金銭を受けたことによるらしい。
ただ、事故や病気(癌や心筋梗塞、脳溢血)といった形ではなく、
外傷という形で現れた非常に稀なケースらしい。

そして、生霊と女の家の「守り神」がどうやら一体化しているらしいこと。
「神」の霊力も強いが、生霊を飛ばしている女の「霊力」が非常に強いらしい。
しかるべき修行をすればテレビに出ているインチキ霊能者が束になって掛かっても
適わないレベル。
その霊力ゆえに「神」と一体化したとも言える。

P家に売り込みに来た祈祷師のオバサンも、市井にいる祈祷師・霊能者の中で、
彼女よりも強い霊力を持つ人は10人いるかどうかというレベルの力を持った人だそうだ。

ただ、傷を受けた原因は俺とPの個人的要因もある。
俺はユキと何度も交わる事により精力や「気」を極度に浪費していた事、
Pは深酒をして酒気も抜けていないような状態で、しかも寝不足で、
俺と同様に非常に「気」の力が落ちていたことだ。

俺達のように極端な例は稀だが、薬物や大量のアルコールで精神のコントロールや気力が下がった状態、荒淫によって精力を浪費した状態で心霊スポットなどに足を踏み入れる事は「祟り」や「憑依」を受ける危険や可能性が非常に高くなって危険なのだと言う。


俺の拙い文章に付き合ってくれてありがとうね。
マサさんの所で起こった出来事や、マサさんに聞いた話を書きながらだと、この話、
いつまで経っても終わりそうにないので、「傷」と女の話に話を絞って書きます。
それでも長くなるけれど。
他の話は別の機会に書きたいと思います。
もう少しだけお付き合い下さい。

マサさんの話によると、
「生霊」を飛ばすと言う事は「精力」や「気」といった
「生命力」を酷く消耗するらしい。
毎晩フルマラソンを走るくらいの負担が心身に掛かり、
確実に本体の命を削り取って行くのだと言う。
普通の人ならば、一月で体調を崩し、
三月もすると回復不能なダメージを負ってしまうのだそうだ。

しかも、これは毎晩生霊を「飛ばす」場合。
本体に生霊が戻る事で、生霊の霊力も本体の生命力もかなり元に戻るらしい。
それでも、削られる生命力は深刻らしいのだが。
だから、「結界」内に生霊を閉じ込められて、
本体に戻れなくされた女がどんなに強い霊力の持ち主であっても、
そう長くは持たないはずだったらしい。

しかも、女の生霊はあの井戸に少しづつ「吸い取られて」いて、
消耗のスピードは更に速まるはずだった。
はじめ「3ヶ月から半年」という期間を示したのは、
Pと俺に「娑婆」から離れる覚悟を持たせるのと、
元いた生活に「心」を残させない為だったらしい。
傷が治った時点で、ほぼ全てが終わる予定だったのだ。

しかし、傷が治って来た時点で話が変わってきた。
女の生霊が消えないのだ。
女の生霊と一体となっている「守護神」は女の霊力を強めてはいても
直接「生命力」を強める事はないそうだ。
女はとっくの昔に生命力を使い果たし、霊力を「井戸」に吸い尽くされて
命を落として「井戸の中身」の一部になっているはずだったのだ。
悪霊が消えない限り俺たちを結界の外に出す事は出来ない。

しかし、どうやら先に俺達の方が危なくなってきたらしい。
背中に書かれた護符の力で守られてはいるが、
マサさんが「引き込まれるな」と最初に注意したように、
俺たちもまた「井戸」に霊力や生命力を削り取られているのだ。
事実、70kg台だった俺の体重は60kg前後まで落ち込んでいた。
Pの痩せ方はもっと激しく、100kgを超えていた体重が
70kgを割りそうな勢いだった。
このままだと生霊が消える前に俺達の方が先に命を落とす。
しかも、この地で死ねば俺達の魂は井戸の中身の悪霊と一体化してしまうというのだ。

マサさんのところに来てからは連日連夜、恐ろしい思いをしていた。
全てがあの井戸絡み。
命を落とすのは、まあ我慢が出来る(うそ、絶対にいや!)。
しかし、あの井戸の中身になるのは死んでも嫌だ!!!

俺達は悪霊との持久戦に入った。
俺達はマサさんの下で
「気力・精力」と「霊力」を高める初歩的な修行をさせられる事になった。
これは、完全に予定外だったらしい。
この為、俺達は一生この手の「霊体験」からは逃れられない「体質」になるらしい。
身を守る方法は教えて貰ったけれどね(サービスだそうだ)。
修行の内容などについては機会を改めて書きたいと思う。


3ヶ月目に入ったとき、マサさんも流石に焦ってきたらしい。
いくらなんでもこんなに持つはずがないと。
男と女では体の造りが違うように、気の性質も違うそうだ。
セクースした時に男は気力や精力を放出し、
女は本能的に男から精力を吸収しているそうだ。これは他の動物も一緒で、
最も極端な例は交尾の後に雌が雄を捕らえて食べてしまう蟷螂だそうだ。
子供を体内で育て、あるいは卵を産む「雌」の普遍的な本能。
セクースした翌日、男はぐったりしているのに女は元気が良くなるのは
この精力のやり取りによる。
(オナニーで一日4・5発抜いても平気なのに、
女と1発やっただけで翌日グッタリしてしまう事があるのはこのせいか!
と妙に納得した)
それ故に女は男よりも霊力も生命力も強く、
生霊や幽霊の類も女の方が圧倒的に多いらしい。

ただ例外もある。
女は絶頂を迎える瞬間だけ気の方向が吸収から放出の方向に変わるそうだ。
この瞬間に女の気を吸収する技法が存在する。
マサさんによると「キ○タマ~ωで女の気を吸い取る」らしい。
精気を吸い取られる瞬間に感じる快感は男女共に非常に強いものらしい。
(確かにオナーニよりセクースでイク時の方が気持ちイイよね)
その快楽は時に人を虜にする。
「色情狂」とは、元々の精力が強い人が、
精力を放出し吸収される快感に囚われた状態であるらしい。

話を戻そう。
マサさんは女の生命力が尽きない理由は、女が「風俗嬢」として毎日、
数多くの男と交わっているからだと考えていた。
しかし、例え毎日10人以上の男と交わっても、
これ程までには持つはずはないのだという。
これは、ある種の「行」や「技法」を用いて数多くの男から精力を「奪い取っている」
と考えなければ説明がつかない。

しかも、これ程のレベルで精力を吸い取られた男は一度で体を壊し、
それでも快楽に囚われて命を落とすまで女の下に通い続けるだろうと。
しかし、そうなると、これは恨みや呪いの「念」により「無意識」に飛ばされる
生霊ではなく、意識的に相手を呪う「呪詛」の範疇なのだという。
だが、俺達に憑いているのは「生霊」であって「呪詛」ではない。


俺たちがマサさんのところに来て半年が経とうとした時に、
マサさんは俺達に言った。
これから女の所に行くと。
俺に女の所に一緒に付いて来いと。

俺はマサさんにそれは危険なのではないかと言った。
悪霊はかなり弱くなっているが、本体に戻れば相手の霊力・生命力から考えて
元の木阿弥になってしまうのではないかと。
…俺、取り殺されちゃうよ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

マサさんは言った。
Pは、自分と俺の「祓い」の為に2人分、2000万円のカネをマサさんに支払っている。
俺を「事件」に巻き込んだのはPだが、金を出す事でPは俺に対する義理を果たし、
この事件に関して俺に対する「因縁」は消えている。
しかし、俺はマサさんに金を支払った訳ではなく、マサさんに対する借り、
「因縁」が残っているという。
場合によっては命を落とす危険もあるが「因縁」を消す為にも協力してもらうと
マサさんは言った。
Pはマサさんと俺が女に会いに行って帰るまで、
道場(敷地内にあった倉庫のような建物)で、
柱に錠と鎖で繋がれた状態で篭る事になった(井戸に引き摺り込まれない為)。


俺は半年目にして初めて敷地の外に出ることになった。
門の外にマサさんの車がある。
俺は手渡されたアイマスクをして、目を閉じて結界を越えた。
粘り付くような、厚いビニールの膜を押し破るような強い抵抗を感じた。
マサさんに習った「技法」に従って、丹田から両手に「気」を集めて熱を持たせ、
その手で「膜」を破って俺は結界の外に出た。
結界の外に出た瞬間、俺は意識を失った。


気が付いた時、俺は車の中だった。
運転しているのは行きに付き添ってくれたキムさん。
頭がガンガンする。
酷い船酔いをしたときのように目が回って気持ちが悪い。
「調息」を試みたが全く効果がない。
今にも吐きそうだ。
俺はマサさんに渡されたビニール袋に大量に吐いた。
吐いた後、暫くすると鼻血が出てきた。
「もう少しだから我慢しろ」とマサさんが言う。
キムさんがマサさんに「この兄さん、持たないんじゃないか」と言う。
マサさんが「一通りのことは出来るから大丈夫だ。手伝ってくれ」と答えた。

やがて車は狭い空き地に着いた。
車が一台止まっている。
行きに乗ってきたキムさんの車だ。
若い男が車外でタバコを吸っている。
キムさんに指示されていたのだろう、2L入りのミネラルウォーターのペットボトルが
2本入ったビニール袋をマサさんに渡した。
マサさんはボトルの中身を捨てると神社?の階段を昇って行った。
キムさんは、俺を神社の階段の前の石畳の上に寝かせ、頭頂部と胸に手を当てて、
半年間毎朝行ってきた瞑想と呼吸法が合わさったものを行うように言った。
キムさんの手を通じて頭から冷たい気、胸からは熱い気が入ってきた。
やった事がなければ判らないが、両手に冷・熱両方の気を通す事は非常に難しい。
俺やPなどは「熱」は作れても「冷」の方は殆ど出来ない。
キムさんも俺たちと同様の修行をしたことがあり、恐らくは今でも継続していて
高いレベルにあるのだろう。

暫くするとマサさんが水の詰まったペットボトルを持って階段を下りてきた。
どうにか落ち着いてきた俺は一本目のペットボトルの水を鼻から飲み込み、
限界まで飲み込んだら吐き出すということを3回繰り返した。
2本目のボトルの水は、マサさんとキムさんが、俺の全身に吹き付けた。
それが終わると俺は階段を昇って神社の境内に入り、「激しい」呼吸・瞑想法を行った。
3時間ほど続けると俺は完全に回復した。
若い男が用意してあったGパンとTシャツ、パチ物のMA-1のジャンパーを着て
車を乗り換えて俺達は出発した。


キムさんの家で丸三日休み、俺とマサさんは女のマンションの部屋に向かった。
女はここ暫く出勤していないそうだ。
女の在宅はキムさんの方で確認済みだった。
マサさんがインターホンを鳴らす。
訪問は伝えてあったのだろう、女は俺たちを部屋に招き入れた。
女はやつれていたが、かなりの美人だった。
ちょっと地味だが清楚で上品な雰囲気。
とても風俗で働くタイプには見えない。
やつれて憔悴してはいたが、目には強い力が在った。
非常に綺麗で澄んだ目をしていて、見ているだけで引き込まれそうな魅力がある。
凄まじい霊力を持っていると言われれば納得せざるを得ないものがあった。
しかし、この女からは人を恨むとか呪うといった
「邪悪」なものは微塵も感じられなかった。

ドアを開けたとき女はギョッとしたような顔をしていた。
マサさんと話しをしている時も俺のことをしきりと気にしている様子だった。
思い切って俺は女に理由を尋ねてみた。
女は震える声で語った。

女の話では、ホテルが建って暫く経った頃から、
昔住んでいた家の夢を良く見るようになったそうだ。
家の中には幼い自分一人しかいなくて、
家族を探して広い家の中を歩き回るのだと言う。
そして、いつの間にか目が覚めて、涙を流しているのだと言う。

ある晩、酷い悪夢を見たそうだ。
風呂場と自分の部屋で繰り返し、何度もレイプされたのだという。
夢と現実の区別が付かないほどリアルな夢だったそうだ。
気が付いた時、自分の手に刀が握られていたそうだ。
彼女は恐怖と怒りや憎しみで我を忘れて、彼女を犯した男を切り殺したと言う。
その男が俺だったと言うのだ。

それ以来、彼女は毎晩悪夢に襲われるようになった。
客に付いた男達が彼女を酷いやり方で襲ってくるのだという。
彼女が恐怖と絶望の絶頂に達した時に手に刀が握られていて、
彼女は恐怖と怒りに駆られて、我を忘れて刀を振るったのだと言う。
しかし、その悪夢は一月ほどすると見なくなったと言う。

その代わりに急に体調が悪くなり、仕事中にボーッとして、
接客中の記憶をなくしてしまうことが多くなった。
生理も止まってしまったらしい。

また、彼女は暫くすると新しい悪夢を見るようになったそうだ。
目の前に小さな男の子が2人いて、自分はいつもの刀を持っている。
そして、鬼の形相の亡くなった父親が彼女を棒や鞭で叩きながら
目の前の子供を斬り殺せと責める。
父親の責めに負けて刀を振るおうとすると
母親の声がしてきて止められるのだという。


マサさんは女に「あなたのお父様は自殺なさったのではないですか?
お母様もそのときに一緒に亡くなられたのではないですか?」と尋ねた。
マサさんが言うとおり、彼女の両親は彼女の父親の無理心中により亡くなっていた。
彼女の父親は朝鮮人に対して激しい差別意識を持って嫌っていたらしい。
しかし、彼女の父親に金を貸したのは在日朝鮮人の老人だったそうだ。
彼女の祖父に戦前世話になった人物で、破格の条件で金を貸してくれていたそうだ。
バブルの絶頂期、手持ちの株などを処分すれば、それまでの借金は十分に返せたと言う。
彼女の母親も強く返済を勧めていたそうだ。
しかし、彼女の父親は「朝鮮人に金を返す必要などない。
家族のいない爺さんがくたばればチャラだ」と借金を踏み倒す気でいたらしい。
彼女の父親の話は聞いていて胸糞の悪くなる話ばかりだった。
彼女も母親は慕っていたが父親の事を嫌っていたようだ。

バブルが弾け彼女の家の資産は大きなマイナスとなった。
マイナスを取り返そうとした父親は悪あがきをして更に傷口を広げた。
金策が尽きた父親は老人に更なる借金を申し込んだが、断られた。
その過程で彼女も借金の連帯保証人となった。
彼女の父親は娘を連帯保証人にしても当たり前で、
借金を断った老人と朝鮮人を呪う言葉を吐き続けたそうだ。

間もなく老人は亡くなり、相続した養子も不況の煽りで破産した。
老人の持っていた債権は悪質な回収屋の手に渡った。
土地や屋敷を失い、それでも残った多額の借金に追われ自殺した彼女の
父親の遺書には恨み言しか書かれていなかったそうだ。

彼女は母親の死を知っとき、勤務していた会社の給料では借金の利息も払いきれず、
風俗で働く事が決まったとき自殺を考えたらしい。
しかし、その度に母の霊に止められたそうだ。


マサさんと俺は彼女の話を聞き、それまでの経緯を全て話した。
マサさんの目は怒っていたが、ふうーと息を大きく吐くと口を開いた。
「これは一種の呪詛ですね。家の代々の守護神を祭神にして、
自分の妻を生贄に娘を呪物に仕立てた悪質な呪詛だ。
しかも、特定の人物ではなく朝鮮人なら誰でも良いといった無差別のね。
更に、呪詛はあなた自身にも向けられている。
お父上は相当な力をお持ちだったようだが、その魂は地獄に繋がっているようですね」

呪詛は呪詛を掛けている事、掛けている人物が割れると効力を失うそうだ。
容易に呪詛を返されてしまうからだ。
しかし、本件では呪詛を仕掛けた本人は既に死んでおり、しかもその力は強い。

先ほどから襖の向こう側から猛烈に嫌な気配が漂って来ている。
マサさんは女に「奥の部屋に仏壇か遺骨がありますね?」と尋ねた。
女は仏壇がありますと答えて、襖を開けた。
俺は思わず「うわっ」と言った。
マサさんの「井戸」の周りで「観た」ものと同質の、
目には見えないものが仏壇から溢れ出てきていた。
これはやばい!
マサさんは女に位牌と父親の写真を額から出して持って来いと言った。
そして、母親の写真を持って俺と一緒にキムさんの家へ行けという。
状況がかなりやばいことだけは判った。
恐らく、マサさんの言葉で呪詛が破られ、悪霊の本体が動き出したのだ。

俺は女の手を引いて表で待っていたキムさんの車に乗った。
キムさんはすぐに車を発進させた。
キムさんは凄いスピードで車を走らせる。
片側2車線の大通りの交差点を赤信号を無視して突っ切る。
背後の交差点からブレーキ音が聞こえる。
信号を3つほど進んでキムさんが車を止めた。
結界の外に出たらしい。
女の部屋を訪れる前に、俺がキムさんの家で寝込んでいる間に、
土の露出した土地を探して、出来るだけ形を整えて結界を張ったのだと言う。
市街地ゆえに結界が予想以上に大きくなってしまったらしい。


キムさんの家に着くと、俺の腹の中や皮膚の下で蠢く虫のような感覚は消えていた。
体が異常に軽い。
こんなに体調が良いのは何年ぶりだろう?
女の顔も血色が良くなっている。
マサさんは翌朝キムさんの家に現れた。
マサさんは女に「お母様の供養をしてあげてください。
それと、神棚を作って実家で祀っていた神様を大事に扱って下さい。
あなたのことを守ってくれるはずですよ」と言った。
女を家に送って部屋を確認すると、
これが同じ部屋かと思うくらいに雰囲気が明るく変わっていた。
位牌と女の父親の写真も無くなっていた。
父親の霊がどうなったかは聞かなかったが大方の予想はついた。
マサさんは道具を整えてもう一度「念のための」儀式を行ったが、
悪霊の類は食い尽くされて残っていなかったそうだ。

俺とマサさんは前と同じように車を乗り換えながらPの待つあの場所へ戻った。

Pの話だと、マサさんが女の部屋を祓った晩、井戸から耳には聞こえないが
頭の中に響き渡るような地獄の底から響いてくるような低い「鳴き声」が
聞こえたそうである。
そして、朝になると体からすうーっと何かが抜け出ていったのを感じたのだという。
それは、井戸に吸い込まれては行かなかったらしい。
土地と俺達の縁を切る儀式を行い、俺達は歩いて結界を越えた。
まるで何もない土地であるかのように、今度は何の抵抗も感じなかった。

俺たちは、往きに立ち寄った電気量販店の駐車場でキムさんの車を待っていた。
車の中で、

俺「あの仏壇の中身は、今は井戸の中なのですか?」

マサ「ああ」

P「井戸から聞こえた声は?」

マサ
「鬼の哭き声だ」「あの井戸の中身もいつかは浄化されて消えて無くなる日が来る。
奴らもその日を待ち望んでいる。その日はまた遠くなったけれどな。
お前達に憑いていた悪霊の声なのか、井戸の中にいたものの声なのかは
俺にも判らないよ」

「で、久しぶりの娑婆だ。お前達、何がしたい?」

P「酒」

俺「女」

マサさんは鼻で哂った。
キムさんの車がやってきた。
俺達はマサさんの車を降り、去ってゆくマサさんを見送った。


終わり




【祟られ屋シリーズ第7話】 呪いの器
http://terakowasu.blog.fc2.com/blog-entry-166.html


日本国内には、いたる所に神社や祠がある。
その中には人に忘れ去られ、放置されているものも少なくない。
普通の日本人ならば、その様な神社や祠であっても、敢えて犯す者はいない。
日本人特有の宗教観から来る「畏れ」が、ある意味DNAレベルで禁忌とするからだ。
かかる「畏れ」は、異民族、異教徒の宗教施設に対しても向けられる。
また、このような「畏れ」や「敬虔さ」は、多くの民族に程度の差はあれ、
共通するものである。

しかし、そういったものに畏れを感じずに暴いたり、
安置されている祭具などを盗み出す者たちがいる。
その多くは、日本での生活暦の浅いニューカマーの韓国人達だ。

詳しい事は判らないが、朝鮮民族は単一民族でありながら
「民族の神」を持たない稀有な存在だという。
神を持たないが故に、時として絶対に犯してはならない神域を犯してしまう。
「神」の加護を持たない身で神罰を受け自滅して行く者が後を絶たないということだ。

この事件もそんな事件の一つだと思っていた。
最初のうちは・・・


ある寒い冬の日だった。
俺は、キムさんの運転手兼ボディーガードとして、
久しぶりにシンさんの元を訪れていた。
「本職」の権さん達ではなく、俺が随伴したのは、シンさんの指名だったからだ。
シンさんの顔は明らかに青褪めていた。
キムさんもかなり深刻な様子だった。
やがて、マサさんもやって来るという。

重苦しい空気の中、2・3時間待っていると、マサさんが一人の男を伴ってやって来た。
マサさんの連れてきた男は、木島という日本人だった。
上背は無いが鍛え抜かれた体をしており、
眼光や雰囲気で相当な「修行」をした人物と感じられた。
これから何が起こるかは判らないが、ただならぬ事態なのは俺にも理解できた。


木島は手にしていたアタッシュケースから
古ぼけた白黒写真と黄ばんでボロボロになった古いノートを出した。
シンさんも、テーブルの上にファイルを広げ、数枚の四つ切のカラー写真を出した。
両方の写真の被写体は、どうやら同じ物のようだ。
それは、三本の足と蓋のある「金属製の壷」だった。
その壷は朝鮮のものらしく、かなり古そうだった。
形は丸っこい、オンギ(甕器)と呼ばれる家庭用のキムチ壷に似ている。
ただ、金属製である事と底の部分に3本の足があること、
表面に何かの文様がレリーフされているのが特殊だった。

表面の文様と形状に、呪術に造詣の深いシンさんやキムさんは
思い当たるところがあったようだ。
それは、一種の「蟲毒」に用いられた物だった。

壷の文様は「蟲毒」の術に長けたある呪術師の一族に特徴的な文様なのだという。
しかし、通常、「蟲毒」に使われるのは陶器製の壷であり金属器は使われない。
ましてや、この壷は「鉄器」であり、「蟲毒」の器としては
恐ろしく特殊な存在だという事だ。

韓国では金属製の器が好んで使用されるが、
伝統的な物の殆どがユギ(鍮器)と呼ばれる真鍮製品なのだという。
李氏朝鮮では、初期から金属器の使用が奨励され、食器や祭具、楽器や農具に至るまで
あらゆる金属製品が作り出されたそうだ。

だが、その素材の殆どが青銅或いは真鍮だった。
高い製鉄・金属加工技術を持ちながら、朝鮮半島では鉄は希少で
広く一般に普及する事は無かったらしい。
温帯気候で樹木の生育の早い日本と異なり、
大陸性の寒冷な気候の朝鮮半島では樹木の生育が遅い。
それ故、製鉄に大量に必要とされる燃料の木炭が不足していたのだ。
昔の中国や朝鮮は、刀剣などを鉄製品の原料・素材として日本から輸入しており、
それは非常に高価だった。
その様な貴重な鉄器を破壊して使い捨てるのが原則の蟲毒の器に用いる事は、
呪術上の意味合いからもあり得ない事なのだと言う。


この壷は、柳という古物商から在日ネットワークを通じて照会されて来た物だった。
柳は、盗品売買の噂が絶えず、在日社会でも非常に評判の悪い人物だった。
本来なら、シンさんはこのような男は絶対に相手にしない。
しかし、流れて来た写真を見てシンさんは驚愕した。
それは、日韓併合以前の韓国で隠然たる力を持っていた、
ある呪術師一族が「呪術」で用いた文様だったからだ。
なぜ、そんなものが日本にあるのか?

その呪術師一族は、韓国の「光復」のかなり前に滅んでしまっていた。
朝鮮総督府は「公衆衛生」のため、朝鮮半島に根深く浸透していた
シャーマン治療を禁止し、近代医学を普及させた。
その影で、多くの呪術師や祈祷師達は恭順して伝来の呪術を捨てるか、
弾圧されるかの二者択一を迫られた。
多くの呪術師が地下に潜ったのに対し、敢然と叛旗を翻した者も少数ながらいた。
この呪術師一族もその少数者の1つだった。

シンさんの調べによると、柳の照会の背景は以下のようなものだった。

日本全国で、高齢の資産家宅や旧家の蔵、寺や神社を荒らし回っていた
韓国人の窃盗団がいた。この窃盗団は「流し」の犯行の他に、
「顧客」の「注文」に応じた仕事もしていたらしい。
日本の美術品、特に仏像や刀剣の類は韓国内や欧米諸国で
熱心なコレクターがいるのだという。
山道や街道沿いに建てられた、ありふれた旧い地蔵などにも
かなりの値が付くという事だ。

どうやら問題の鉄壷は、ある人物の「注文」により盗み出されたものだったらしい。
だが、「仕事」を終えてすぐにその窃盗団に異変が起こった。
窃盗団のメンバーが、僅か数日間で次々と怪死を遂げたのだ。

柳の元に鉄壷を持ち込んだのは、窃盗団の最後の生き残りである朴という男だった。
朴は日本国内で逮捕歴があり、他の仕事で下手を打った為に身を隠しており、
詳しい事情を知らなかった。
朴は盗品の隠し場所から、他の数点の美術品と共に鉄壷を持ち出し、
伝のあった柳の元に持ち込んだ。
相次ぐ仲間の死と、自分の身辺に迫る気配に恐怖を覚え、高飛びしようと考えたのだ。

盗品ブローカーである柳は、朴の持ち込んだ美術品を買い入れた。
朴の持ち込んだ盗品の中で、問題の鉄壷は最初「ガラクタ」扱いだった。
しかし、朴が盗品を持ち込んですぐに鉄壷を買いたいという人物が現われた。
その男の提示した金額はかなり破格のものだった。
だが、柳は「商売の鉄則」として、仕入れた盗品を特定の業者以外の第三者に
直接転売する事は無かった。
何処で柳が盗品を扱っている事や鉄壷の存在を知ったのか謎であったし、
金を持ったまま首を吊った朴の死が柳を慎重にさせた。
柳は鉄壷について同業者に照会し、購入希望者の背後を探った。

柳の照会はシンさんの元に届き、とんでもない代物である事が判明した。
それは、人の触れてはならない「呪いの器」だったのだ。
シンさんは、壷が朝鮮の呪物であったことから、
詳細を知るために、ある人物に壷について問い合わせた。
その結果、鉄壷が、シンさんやキムさんの当初の予想をはるかに越える危険な物で
あることが明らかになった。
この鉄壷の用途は、「蟲毒」などという生易しいものでは無かったのだ。

鉄壷が安置されていたのは「***神社」という、
人に忘れ去られた、無名の小さな神社だった。
忘れ去られたと言うのは正確ではない。
触れ得ざる物を人界から隔離する為に、人目から隠して建立された神社だったのだ。
其処までして封じようとした鉄壷の正体は何だったのか?

鉄壷の正体は「炉」だった。
蓋を開け、中に「あるもの」を封じてから蓋を閉じ、
燃え盛る炎の中に入れるのだという。
その為に壷は鉄で作られ、底に足が付けられていたのだ。
鉄壷の中に入れられた「あるもの」とは何か?

それは人間の「胎児」だった!

妊婦を凌遅刑に掛け、その子宮から取り出した胎児を鉄壷に入れて焼いたと言うのだ。
その数、実に12人!
年に一人、12年の時を掛けた大掛かりな呪法だった。
鉄壷の丸い形は女の子宮を表していたのだ!
11人の女は、さらわれたり、売られたりして来た哀れな女達だった。
呪術師に慰み者にされ、子を孕んで時が満ちると切り刻まれ、
我が子を「鉄壷」で焼かれたのだ。
その、恨み、怨念は如何ばかりのものだっただろうか?

だが、12人目の最後の儀式は更に恐ろしくおぞましかった。
12人目の女は、12年間呪術を行ってきた呪術師の実の娘だった。
犯された娘の妊娠が判ると、呪術師は彼の息子によって凌遅刑に掛けられた。
時間を掛けて切り刻まれた呪術師が息絶えると、
父を殺した息子の呪術師は儀式を行った。

それは「反魂」の儀式。
殺された呪術師を娘の腹の中にいる胎児に「転生」させる儀式だった。
所定の時が満ちると、娘は11人の女達と同様に凌遅刑に掛けられ、
呪術師の転生児である胎児は子宮ごと鉄壷に封じられた。
蓋は二度と開かないように封印され、更に10年近く呪術師の家に安置されたのだと言う。

醜悪で余りにおぞましい行いだが、「この手の」呪いは、
やり口が醜悪で無残であるほど効力が高まるものらしい。
鉄壷が安置されていた間、呪術師の一族の人間や村人達は一人また一人と死んで行った。
村が殆ど死に絶えたとき、術を仕上げた呪術師は鉄壷を持ち出して日本に渡った。

日本に渡った呪術師には姉がいた。
妹と同様に父親に犯されたが妊娠せず、その後も生き残っていたのだ。
彼女は弟を追って日本に渡った。
彼女の弟である呪術師は、鉄壷を持ったまま身分を隠して
日本各地の朝鮮部落を渡り歩いた。

本国から身一つで渡ってきた同胞を朝鮮部落の人々は匿い助けたが、
呪術師の行く先々で多くの朝鮮人が死んだ。
弟を追い切れなかった姉は、ある朝鮮部落の顔役であった宗教家に呪いの事、
弟の事を相談した。
自分の手に余ると考えた宗教家は、ある日本人祈祷師の元に彼女を連れて行った。
彼女は韓国で行われていた儀式やそれまでの事、
一族の呪術や、鉄壷について知っていることの全てを祈祷師に話した。
彼女の話した言葉を日本語に翻訳したものの写し、
それが木島が持ってきた古いノートだった。


鉄壷、それは「呪いの胎児」を育てる為の「子宮」だった。
そして、胎児を育てる「養分」となるのは「生贄の命」だった。
「生贄」とは?
それは、呪術師の同胞であるはずの朝鮮人だった。
儀式を完成して10年近くも壷が韓国に置かれ、
壷を持った呪術師が日本国内の朝鮮部落を渡り歩いたのはなぜか?

それは、生贄の命を子宮たる鉄壷に吸い上げる為の、
言わば「根」を張り巡らせる作業だったのだ!
・・・鉄壷の中の「呪いの胎児」が、標的を呪い殺せる強さへと育つまで、
生贄の民であり、同胞である朝鮮人の命を吸い上げようと言うのだ。
その数は何万、何10万。
あるいは、更に多く・・・。
そこまでしなければ呪いを成就できない「標的」とは何だ?

木島は淡々とした口調で語った。
この呪いは特定の個人ではなく「皇室」を標的とし、124代に渡って継続してきた
皇統を絶つことによって日本と言う国を滅ぼそうとしたものだと。
俺は木島に言った。

「蟲毒や生贄を使って、一族や血統を滅ぼす呪法があるのは知っている。
しかし、この呪法のやり口はいくらなんでも無茶苦茶だ。
大体、無差別・無制限に生贄を必要とするなんて、そこまでする必要があるのか?
仮に皇室が滅んだからと言って、それは日本滅亡とは直結はしないだろう?」

シンさんとキムさんが呆れ顔で俺の顔を見て、マサさんは深いため息を吐いた。
そして、キムさんは

「お前、本当に何も解ってないんだな。
まあ、日本人だから無理も無いのかもしれないな」

そう言うと、この呪法が皇室・皇統を絶とうとしたことの意味を語り始めた。


キムさんの話によると、
この世界は、他文化・異民族、異教徒を飲み込んで支配しようとする「支配者」と、
「被支配者」に分かれるのだという。
支配者とは、大まかに言ってユダヤ・キリスト教徒、
被支配者は土着宗教やローカルな文化がこれに相当する。
アジア地域における支配者は中華文明であり、
日本やインド、朝鮮などを除く多くのアジア諸国・地域の支配層はその多くが
中華の流れを汲むということだ。

他者を支配しようとする宗教や文化、王朝は、長く続けば続く程に、
その「影」の部分として呪術的側面が育って行くそうだ。
支配を続ける事は即ち「業」を積み重ねて行くことに他ならないからだ。
「支配」の本質とは「悪」なのだ。
それ故に、王朝や文明は蓄積された「悪業」が臨界点に達すると
必然的に崩壊へと向かう。

被支配者や民間の呪術は、支配者や自らを併呑しようとする者に対する抵抗の手段だが、支配者や権力者側の呪術は破滅へと積み重なる「業」への抵抗なのだそうだ。
ある時は疫病を祓い、災害を祓う。反乱者や簒奪者に呪殺を仕掛ける事もある。
支配する事によって積み重なった「悪業」が招く「災厄」を祓うのが
権力による呪術であり、それは徐々に大きくなり、顕在化してくる。
それ故に、本来「影」であるべき呪術が表面に出て来るようになった文明や国家は
末期的で、滅びが近いと言うことだ。

王朝や宗派等は、代を重ねる毎に「悪業}だけではなく、
逆に「霊力」や「呪力」も強めて行く。
だが皮肉な事に、積み重なって強まった「霊力」「呪力」は、
臨界点に達した「悪業」と共に破滅への原動力となってしまうのだ。
霊力や呪力は浄化への力だからだ。

日本は明らかにユダヤ・キリスト教圏や中華文明といった「エスタブリッシュメント」には属さない存在である。
しかし、中華文明圏を脱してからというもの、
中華文明による再併呑もユダヤ・キリスト教圏による併呑も完全支配も叶わなかった。
それには、様々な要因があった。
だが、呪術的側面から見ると、それは「皇室」という極めて特殊な存在によるものだという。

日本の皇室は通常、王朝の「影」である呪術的部分がその存在の根幹であって、
その他の部分は「支配」や「権威」すら枝葉に過ぎないということだ。
日本皇室は唯一最古の帝室である前に、最古・最強の呪術の系譜なのだ。
エスタブリッシュメントに属さない存在でありながら、強い力を持つ日本皇室は、
本来ユダヤ・キリスト教圏にとっても中華文明圏にとっても消し去りたい存在らしい。
しかし、最高の霊力・徳を持つ日本皇室と正面から対立する事を彼らは避けるようになった。

天安門事件に端を発する国家存亡の危機に瀕した「中華人民共和国」が、
「七顧の礼」を以て天皇訪中を招請し、国難を凌いだのはその好例だそうだ。
殲滅ではなく共存を選んだのは、日本皇室及び日本人が、異民族を併呑して
「帝国」を運営する力量を持たない民族であることが明らかになったからだ。
直接利害が衝突しない「触れ得ざるもの」に自ら敵対して、
再び火傷する事を怖れたのだ。

「日本国」とは日本皇室の誕生から続く一つの王朝に過ぎない。
それ故に皇室の否定は日本と言う国の存在自体を否定する事に等しい。
本質的に、強大な「力」を持つ日本皇室や、
中華文明に併呑されない「日本」を敵視する「中国」は、
長期的視点で日本を内側から崩しに掛かっている。
所謂、売国メディアや自虐史観がそれだ。

自らの王室や、国家・民族に殉じた人々を誹謗する事は、
国の「運気」を非常に損なう、天に唾する愚行なのだと言う。
「死人に鞭を打たない」という日本人の文化は弊害もあるが、
国家の「運気」を保つ上で重要な意味を持つのだ。

現在行われている工作は、「皇室の呪力」と直接衝突せずに、
日本国の「運気」や「霊力」を殺ぐ手段としては、呪術的にも理に適っているそうだ。

「呪力」「霊力」の最高位にある日本皇室に呪術を仕掛ける・・・
それは、強力であればあるほど自殺行為に等しくなる。
少しでもまともな呪術的視点を持つ者なら絶対に避ける愚行である。
しかし、敢えてそれを行う者は後を絶たない。
一部日本人と朝鮮民族である。

朝鮮民族は自らを「小中華」と称し、
甚だしくは中華文明の正当継承者であると自認している。
しかし、その実態は、大陸の袋小路である朝鮮半島に封じ込められた「生贄」の民族である。

彼らの特性は、如何なる外敵の支配にも抵抗しないが、
併呑・同化はされないという点にある。
宿主たる征服者の体内に潜み、その内部を食い荒らし、滅びを加速させる。
そして、次の宿主たる支配者・征服者に取り入り、再び食い荒らすのだ。
支配者に同化されない為、彼らが独特の民族心理として培ってきたものが「恨」である。
支配者に対する潜在的敵意である「恨」という民族意識によって、
彼らは確固たる独自文化、独自宗教を持たずして民族としての生存を図ってきたのだった。

自らをエスタブリッシュメントである「中華文明の担い手」とする民族的錯誤、
更に「生贄」であることに気付かずに反日感情を煽られて自殺的行為に走る
朝鮮人呪術師は多い。
しかし、根本的理由は朝鮮民族の潜在的な生存本能に負うところが大きいらしい。
強力な民族や国家に囲まれた弱小の朝鮮民族が、民族として生き残ってこれたのは、「恨」の精神によって頑なに異民族との同化を拒んできたからだった。

しかし、最も関係の深い隣国である日本は、外来の技術・技芸、文化・宗教、
そして人間までもその内部に取り込み、強力に同化してしまう恐るべき特性を
持っていた。
日本に渡った同胞は短期間で日本と言うブラックホールに飲み込まれ、
日本人と化してしまった。
古来、日本に渡った者は「エリート」が多かった。
だが、そういった者ほど日本への同化、日本人化は早かった。

故郷を離れ、異国で世代を重ねながらも「朝鮮民族」である事にこだわりを見せるのは、むしろ低い身分の出身者が多いようだ。
日本人の目からは誇張に見える事も少なくないが、
日韓併合は朝鮮民族にとって民族存亡の危機だったのだ。

シンさんは言った。
例え、世代が5世・6世と進み、制度的に不利な身分に置かれようとも、
朝鮮民族の日本への帰化は一定以上には増えないだろうと。
朝鮮民族には他民族に併呑され同化されることへの本能的な恐怖がある。
そして、同化力の強い日本と言う国家・社会において朝鮮民族としてのアイデンティティの拠り所となるものは「国籍」位しかないのだと・・・

この特異な性質を持った日本と言う国を滅ぼす事、
日本と言う国家の起源とも言える皇室を打倒することは、
朝鮮民族の民族的命題とも言えるのだ。
もっとも、最近は日本皇室の「権威」を自らに引き寄せようとする動きもあるようだが

ともかく、狂気とも言える「鉄壷の呪法」を行った呪術師は、
自らの命を掛けるほどに強烈な覚悟を持って皇室…日本と言う国を呪った。
しかし、呪いの対象は、ある意味無限に近い、全世界を敵に回してもなお平然と存続してしまうほどの霊力を持った存在だった。

鉄壷は際限なく「生贄」の命を吸い取る。
少なくとも日本国内にいる朝鮮民族にとって非常に危険な呪物となった。
いや、呪術師がこのような陰湿でおぞましい呪法を組み立てたのは、
むしろ、それが目的だったのかもしれない。
日本への同化を嬉々として受け容れようとした、
反民族的な「親日朝鮮人」を根絶やしにする為の呪法と考えた方が筋が通る。
実際、鉄壷を持ち込んだ呪術師の行く先々で多くの人々が命を落とし、
謎の病に倒れた。

どのような経緯で確保されたかは謎だが、
鉄壷は回収され、多くの朝鮮民族の命を守る為に
日本人の手によって「***神社」に安置される事になった。
封印は功を奏し、半世紀以上の時間が経過した。
当時の関係者はいなくなり、呪いの鉄壷の存在を知る者は居ないはずだった・・・

しかし、***神社は暴かれ、鉄壷は持ち出された。
俺達は、再封印できるか***神社の確認と、
柳の元にあるであろう鉄壷を確認しなければならなかった。
俺は木島と共に***神社へと向かった。


***神社は雪深い山奥にあった。
車で行けるところまで行き、後は地図とGPSを頼りに徒歩で進んだ。
6時間以上掛かっただろうか?
俺達は岩だらけの川原に出た。
川に沿って上流に向かうと対岸に黒い鳥居が見えた。
川幅は15m程だが、流れはかなり速い。
だが、窃盗団は川を渡っているはずだ。
上流に向かって10分ほど進むと、岩伝いに歩いて渡れそうな場所があった。
俺達は対岸に渡り、鳥居の前まで戻った。

鳥居は高さ2m程の小さな物だった。
鳥居には太い鎖で出来た輪が内側いっぱいに広げて吊るされていた。
鳥居から奥に10mほど進むと焼け落ちた祠があった。
火を放たれてそれ程時間は経っていないのだろう。
焼け跡の生々しさがまだった。
祠の裏は奥行き5m程の人工のものらしい岩の洞穴があり、
最奥部には鉄壷が収められていたのだろうか、
直径40cm、深さ60cm程の縦穴が掘られていた。
洞穴の中にも火が放たれたのだろう、黒い煤や油の臭いが微かに感じられた。
俺は木島に「どうですか?使えそうですか?」と声を掛けた。
暫く木島は目を瞑ったまま黙っていたが、やがて口を開いた。
「ダメだな、道が付いてしまっている。ここはもう使えない。他の手を考えないとな」

日本各地には俗に「パワースポット」と呼ばれる地脈の集結点や、
大地の「気」の湧出点がある。
それとは逆に、地脈から切り離され、大地からの「気」が極端に希薄なポイントもある。
仮に「ゼロスポット」と呼ぼう。

このゼロスポットは呪物や不浄な存在を地脈・気脈から断ち切って封印するのに
適した場所なのだと言う。
ゼロスポットはパワースポットよりも数が少なく貴重なものらしい。
発見されたゼロスポットは祈祷師や神社などが把握し、監視しているということだ。
この神社も、ある祈祷師のグループが見つけて管理していたポイントの提供を受けて
建立されたものだと言う。

朝鮮人の「命」を生贄として吸い取る鉄壷は日本人の神官によって封じられた。
今回、木島が呼び寄せられ、マサさんやキムさんではなく、
俺が***神社に赴いたのも「道」が付くのを怖れたからだ。
生贄である朝鮮人が足を踏み入れれば、壷に「命」を吸い取られ、
吸い取られる筋道が外界への「道」となる。
窃盗団の韓国人が足を踏み入れた事で、このスポットは聖域ではなくなってしまったのだ。


日が落ち始めていたので、俺達は***神社の洞穴で夜を明かすことにした。
洞穴の奥で寝袋に潜り込んでいると、やがて睡魔が襲ってきた。
浅い眠りに入りかけたところで不意に意識がハッキリした。
だが、体は動かない。
いわゆる金縛りだ。
やがて、ヒソヒソ話す複数の声、赤ん坊の泣き声、女の悲鳴が絶え間なく聞こえてきた。
俺はもう、金縛りや「声」くらいでオタ付くほどウブではなかったが、
場所が場所だけに気持ちの良いものではなかった。
俺は徐々に金縛りを解き、立ち上がった。
俗にいう「幽体離脱」と呼ばれる状態だ。
「幽体離脱」は、コントロールされた夢の一形態だ。
俺は洞穴の外を見た。

洞穴の外にはX字に組まれた木に手足を縛られた血まみれの女が磔にされていた。
手に刃物を持った血まみれの男が、女の耳や鼻、乳房を刃物でそぎ落として行く。
女が表皮の全てを削ぎ落とされて、人の形をした赤い塊になると、
男は女の膨らんだ腹に刃物を突き立てた。
凄まじい女の悲鳴。
目蓋の無い女の目が俺を睨み付ける。
男が女の腹から何かを掴み出し、こちらを振り返った。
男が掴んでいたものは臍の緒の繋がったままの胎児だった。
抉り取られて眼球の無い男の顔が俺の方を向くと、
男と女、そして胎児が口々に呪文のように「滅ぶべし」と唱え続けた・・・
余りに酸鼻な光景に俺は凍りつき、やがて意識が遠のいた。

俺は木島の「おい」と言う声で目を覚ました。
洞穴の中の気温はかなり低かったが、俺はびっしょりと嫌な汗をかいていた。
ランタンの黄色い光に照らされた木島の顔にも脂汗が浮いていた。
どうやら木島も同じものを見ていたらしい。
俺が木島に「あれは・・・」と問うと、
木島は「夢だ・・・だが、現実でもある・・・」と答えた。
夜明けまでは、まだ時間があったが、俺達は眠らずに太陽が顔を出すのを待った。

山を下りた俺と木島はマサさんと合流した。

マサさんと合流すると、俺達は鉄壷を買い取った盗品ブローカー、柳の元へと向かった。
俺達は柳の指定したスナックを訪れた。
店は古く、掛かっている曲も昭和の古い演歌ばかりだった。
事前情報によると、柳は50代前半の年齢のはずだった。
しかし、目の前にいる男の顔は明らかに老人のそれだった。
時折激しく咳き込みながらジンロを呷る柳の顔には、
誰が見てもハッキリと判る「死相」が浮いていた・・・

マサさんが柳に「鉄壷は何処にある?」と聞くと、
柳は「西川と言う男が持って行った」と答えた。

俺は「西川?在日か?」と尋ねた。
すると柳は「いや、アンタと同じ日本人だ。ただね、バックがやばい。
ヤツは@@@会の幹部だ」
柳が口にしたのは韓国発祥の巨大教団の名前だった。
確かにヤバイ。

その教団は政界や財界、裏社会とも関係が深い危険な団体だった。
日本を「サタンの国」、天皇や皇室を「サタンの化身」とし、
日本民族を朝鮮民族の奴隷とすることを教義とするカルト教団だ。
外法を以て皇室に呪いを掛けたとしても全く不思議ではない狂信者の群れ・・・
それが、その教団だった。

柳は「俺も色々と訳ありのブツを捌いて来たが、あの壷は極め付きだ。
引き取ってくれるなら金を払っても良いくらいだ・・・」
更に、ククッと笑うと、「いきなり大人数で押しかけて、持って行かれちゃったんで、
代金を貰ってないんだ」
顔に傷や痣は無かったが、Yシャツのはだけた柳の胸には内出血の痕があった。
いつまでも鉄壷を渡さない柳に業を煮やした西川達は、
柳を痛めつけて鉄壷を奪って行ったのだろう。
「あんなものはいらないけれど、只で持って行かれるのは面白くない。
欲しかったらアンタ達にやるから取り返してくれ」
マサさんが「判った。そうさせてもらうよ」と言うと、俺達は席を立ち店を後にした。

帰りの車中、後部座席で木島がマサさんに「どうする?」と声を掛けた。
マサさんは

「俺は荒っぽいのはキライなんだ。監視をつけて1週間ほど泳がそう。
そうすれば、向こうから壷を渡したくなっているだろう」

キムさんの手配で、権さん達が西川家やその取り巻きを監視している間に、
西川とその周辺の者達に次々と「不幸」が訪れた。
普通ではありえない短期間に、事故や急病による死が相次いだ。
西川自身も飲酒運転の車に突っ込まれて重傷を負っていた。
「頃合だ」と言って木島は西川の元を訪れ、問題の鉄壷を手にして戻って来た。

木島が戻ってくると、マサさんは俺に紙包みを渡して「柳の所に届けてくれ」と言った。
持った感じ、100万と言ったところか?
俺は、前のスナックを訪れ柳の居所を聞いた。
柳は既に死んでいた。

俺たちが去った後、連日、目が覚めると酔い潰れるまで飲み続け、
再び目が覚めると飲み続けると言う生活を続けていたらしい。
柳には家族はいなかったが、別れた女がいた。
俺は女の下に金を届けた。
女は「そう、あの人が死んだの」と、感情の無い声で金を受け取った・・・

戻った俺はマサさんに
「壷はどう処理します?***神社はもう使えませんよ?」と尋ねた。
すると木島が
「お前、今夜、壷と一緒に夜を明かせ。心を空っぽにして壷を『観続ける』んだ。
お前の思い付いた方法で処理しよう」と言った。
俺は「待ってくれ、西川達は日本人だけど、死人が出ていたぞ?大丈夫なのか?」
鉄壷の周辺で相次ぐ人の死に、俺はかなりビビッていた。

***神社から盗み出されて以来、この鉄壷の周辺で死んだ者は、
神社から盗み出した窃盗団が5名。
鉄壷を持ち出した朴と、買い取った柳。
西川と共に自動車事故に遭って死亡した西川の妻。
心筋梗塞で死亡した西川の父親、冬の寒空の下で大量に飲酒して凍死した西川の部下など10名に達していた。
しかも、西川の周辺の死者は皆、日本人だったのだ。
神社の洞穴で見た生々しい「夢」の事もあって、俺はこの鉄壷については、
かなりナーバスになっていた。

マサさんは
「大丈夫だ。お前は日本の神々の加護を受けている真っ当な日本人だ。
壷の中身も、お前に危害を加える事は出来ない。
よしんば出来たとしても、今のお前なら自分の身を守るくらいの力は十分にある。
西川達は日本と言う国や日本民族を害そうとする『邪教』に魂を売り渡して、
霊的に日本人ではなくなっていたのさ。
加護を失っただけではなく、裏切りによって日本の神々を敵に回していたんだ。
あの教団の教義を見ろ。あんなものに帰依する輩をお前は同じ日本人と認められるか?
まあ、あの鉄壷を放置したら、今の日本じゃ命を落とす日本人も少なくはなさそうだけどな。大丈夫だからやってみろ」

俺はマサさんや木島の言葉に従って鉄壷と夜明かしする事になった。

急遽、マサさんがレクチャーしてくれた瞑想法に従って、俺は心を空っぽにして壷を
「観」続けた。
やがて、洞穴の中で見た地獄のようなイメージが脳裏に浮かんできた。
真っ赤な灼熱の荒野で磔にされた血塗れの女達とその足元に転がされた赤ん坊。

まず、俺は明るい日差しの真っ白な雪原をイメージした。
次に、雪解け後の春の草原のイメージ。
瞑想によって「スクリーン」に浮かぶ景色は、俺のイメージに従って変化した。
俺は、きれいな女の裸体をイメージしながら女の縄を切り、
足元の赤ん坊を女に抱かせた。
すると血塗れの母子は美しい姿に戻った。
俺はイメージの中で同じ作業を繰り返し続けた

気が付くと、俺と11組の母子の前に、洞穴で観た眼球の無い血塗れの男が立っていた。
血塗れの女が男を見つめる。
我が子の胎児に転生し、自ら封じられたと言う呪術師だったのだろうか?
俺は女達の怯えを感じた。
俺は男に「見ろ、ここはもう地獄じゃないぞ」と語りかけた。
すると、男の顔には目が戻ったが、
「・・・滅ぶべし」「・・・を呪う」という男の声が聞こえてきた。
俺は「アンタは日本人に転生しても、日本を呪うのかい?」と問いかけた。
男の意思の揺らぎを俺は感じた。
俺は、先ほどまでの赤い灼熱の地獄を思い浮かべて、
「皆、あそこに戻る気は無いってさ。アンタ、あそこに一人で留まるかい?」
と問いかけた。
俺の脳裏に「いやだ!」と言う、強い言葉が響いた。
男の姿は消え、目の前に血塗れの女と赤ん坊がいた。
俺は先ほどまで繰り返した「治療」のイメージ操作を行って、
男だった赤ん坊を女に抱かせた。
すると、女達は一人また一人と消えて行き、最後の母子が消えて行った。
その瞬間に俺は脳裏で問いを発した。

「お前達、何処へ行きたい?」

やがて、景色のイメージが消えて脳裏の「スクリーン」は暗くなり、
俺は瞑想から醒めた。
最後に問いを発したときに浮かんだイメージ。
それは陸の見えない、果てしない「海」のイメージだった。

俺はその事をマサさんたちに伝えた。
マサさんは「そうか、判った」と答えた。

俺がマサさんのレクチャーに従ってイメージを操作した瞑想法は、
供養法の一種なのだそうだ。
俺には呪術や祈祷の儀式についての知識が無く、
「調伏」のイメージが無かった事が成功の鍵だったようだ。
また、長い間神社に封じられて浄化が進んでいて、
鉄壷の呪力がまだ余り戻っていなかったことも幸いしたようだ。


春分を待って、鉄壷の本格的な供養が行われた。
花や酒、果物や菓子を供えた祭壇に僧侶の読経の声が響き渡る。
俺は手を合わせて、瞑想で観た壷の中の人々に、
「どうか成仏して、あの世で幸せに暮らして下さい」と祈った。

日を改めて俺達はキムさんのチャーターした漁船に乗って海上に出た。
やがて、船は停船した。
空はよく晴れ、波も穏やかだった。
マサさんが「これで終わりだ。最後はお前の仕事だ」と言って鉄壷を俺に渡した。
ズシッと来る鉄壷を俺は両手で持ち、できるだけ遠くへと海に放り投げた。
大して飛ばなかった鉄壷は、あっという間に海の底へと沈んで行った。
鉄壷を沈めた海に俺達は花束を投げ、酒を注いだ。
手を合わせ、しばし黙祷をすると、再び船のエンジンが始動した。

俺たちを乗せた船は、港へ戻る航路を疾走し始めた。


おわり



【祟られ屋シリーズ第18話】 日系朝鮮人
http://terakowasu.blog.fc2.com/blog-entry-225.html

イサムと出かけたロングツーリングから戻った俺は、
以前からの約束通り、木島氏の許を訪れていた。
呪術師としての木島氏しか知らなかった俺は、
木島氏の意外な一面を知ることになった。

木島氏は婿養子らしい。
5歳ほど年上だという奥さんの紫(ゆかり)さんは、
少しきつい印象だが女優の萬田久子に似た美人だった。
紫さんの父親に関わる『仕事』で気に入られ、木島家に婿入りしたようだ。
木島家が何を生業にしているのかは判らない。
見るからに高そうなマンションのワンフロアを借り切り、
そのマンションには目付きの悪い男たちが頻繁に出入りしていた。
招かれたのでもなければ、あまり近寄りたい雰囲気ではない。

木島氏には20代後半で『家事手伝い』の長女・碧(みどり)と
女子大生の次女・藍(あい)、中学生の3女・瑠璃(るり)の3人の娘がいた。


木島家に滞在して、俺がそれまで木島氏に抱いていたクールで冷徹なイメージは
脆くも崩れ去っていた。
家庭人としての木島氏は、女房に頭が上がらず、娘に大甘なマイホームパパだった。
少し引き篭もり気味だが、碧は家庭的な女で家事一般が得意、料理は絶品だった。
藍は、頭の回転が早く、話し相手として飽きない楽しい女だった。
人懐っこい性格の瑠璃は、テニスに夢中……。
色々と驚かされることもあったが、家族仲の良い木島家は見ていて微笑ましかった。
思いのほか居心地の良い木島家で俺は寛いだ時間を過ごした。
だが、リラックスした時間はやがて終わり、『本題』が訪れた。
どんな目的があるのかは分からないが、
かねてより俺に会いたがっていると言う人達の許に俺は向かった。


木島氏に連れられて俺が訪れたのは古い邸宅だった。
表札には『一木』と書かれていた。
木島氏と共に奥の部屋に通され30分ほど待たされたか。
少々イラ付きもしたが、神妙な木島氏の様子に、態度や表情には出さずにいた。
やがて、家主らしい初老の男性と榊夫妻、和装の老女が部屋に入ってきた。

「お待たせして申し訳ない……」

この男性は、相当な地位にある人物のようだ。
榊夫妻や木島氏の様子、何よりもその身に纏う『威厳』がそれを物語っていた。
この初老の男性が一木貴章氏だった。
挨拶もそこそこに一木氏が「本題に入ろう」と切り出した。
一木氏は、何かの報告書らしいレポートに目を落としながら話し始めた。

「XXXXX君、昭和XX年X月XX日、A県B市出身。父親は……母親は……。
 兄弟は姉と妹が一人づつ……」

一木氏は、俺や俺の一族の背景、その他諸々を徹底して洗ったようだ。
一木氏の話す内容は俺が自ら調べて知っていたことだけでなく、
調べても判らなかったことも数多く含んでいた。


俺の父親は、70数年前、今の北朝鮮・平壌で生を受けた。
警察関係の役人だったという祖父と祖母は、
まだ幼かった次女を連れて朝鮮半島に移住した。
二度と帰国するつもりはなく『日系朝鮮人』として朝鮮の土になる……
覚悟の出国だったようだ。

父の実家は、地元では一応『名士』とされていたようだ。
婿養子で軍人だった曽祖父が、東京である『特別な部隊』に所属し、
その後も軍人として出世したかららしい。
その部隊に所属することは大変な栄誉とされていたらしい。
地元選出の国会議員や市長クラスの宴席に呼ばれることも度々だったそうだ。
曽祖父が出世して『名士』扱いされてはいたが、
父の実家のあった地域は一種の『被差別部落』であり、
父の一族はその中でも特に差別された一族だったようだ。

俺の一族が『田舎』で差別された存在だったことを俺が知ったのは、
祖父の葬儀のために、父の『実家』を訪れた時のことだ。
祖父の葬儀は異様な雰囲気だった。
参列者は俺たち親族と、祖父の『お弟子さん』だけで、
近所からの参列は古くから付き合いのある『坂下家』だけだった。
俺たちの様子を伺う近所の住人達の視線を俺は生涯、忘れることはないだろう。
差別とやらの内容は知ることは出来なかったが、
憎悪や恐怖、その他諸々の悪意の込められた視線…『呪詛』の視線だ。

96歳で台湾で客死した祖父は、韓国や台湾、中国本土を頻繁に行き来する生活を
送っており、弔電は国内よりも国外からの物の方が多かった。
国内の弔電も『引揚者』やその家族からのものが殆どだったようだ。
父達の引揚げは『地獄』だったそうだ。
父は、昭和24年に引き揚げたらしいが、
引揚時に負った傷が元で右目の眼球と右耳の聴力を失っている。

だが、父が話すことはないが、帰国後の日本で父が見た『地獄』は、
引揚時に朝鮮半島で見た地獄よりも苛烈だったようだ。
父にとっての故郷は、生まれ育った『朝鮮』であり、
ルーツである日本の『田舎』は記憶から消去したい、呪われた場所らしい。
祖父の葬儀が終わったあと、父は姉と妹、そして俺に言った。

「これで、我々の一族とこの土地の縁は完全に切れた。
 私がここに来ることは、もう二度とないだろう。
 私たちは、もう他の土地の人間なんだ。
 お前たちも、二度とここに来てはならない。全て忘れるんだ」

祖父は、苦学しながら高等文官試験?を目指す学生だったそうだ。
翻訳や家庭教師といったアルバイトをしていて、
東京で女学生をしていた祖母に見初められたらしい。
祖父は、高等文官試験には通らなかったようだが、
特殊な才能をもっていたそうだ。
全く知らない外国語でも1日あれば凡そ理解することができ、
1・2週間ほどで読み書きは別にして、自由に話すことができたそうだ。
事の真偽はわからないが、祖父が日本語のほか、
英語・フランス語・ドイツ語・朝鮮語・中国語・ロシア語・スペイン語・ポルトガル語の
会話と読み書きが出来たのは確かだ。

祖父は婿養子として祖母と結婚し、内地でキャリアを積んだあと
警察関係の役人として朝鮮に渡った。
日本の敗戦により、朝鮮の土になるつもりでいた祖父たち一家は、
やむを得ず、多数の引揚者を連れて帰国した。
本来ならば、差別の残る祖母方の実家ではなく、
祖父方の実家のあった地に戻るところだったのだろうう。
だが、祖父の実家は、終戦直前に家族親戚とともに
一瞬でこの地上から消滅してしまっていた。
父は高校卒業まで田舎にいたが、大学進学を期にそこを離れ、
祖父の葬儀まで二度と戻ることはなかった。
大学に進学した父は知人宅に身を寄せた。

父が下宿していた知人宅、それが俺の友人Pの父親の実家だった。
詳しいことは分からないが、朝鮮半島で俺の祖父とPの祖父は何らかの関係が
あったらしく、俺の祖父の手配でPの祖父一家は日本に移住してきたらしい。
俺の一族にPの一族は返しきれない恩があるとかで、
『俺の一族に何かあった時には、何を差し置いても助けろ』
と言うのがPの父親の遺言だそうだ。
俺にとっては、Pは友人であり、恩や遺言は関係ないのだが、
彼にとってはそうではないようだ……。

カトリックだった祖父の実家は同じくカトリックだった母方の祖母の実家と
家族ぐるみの付き合いがあったそうだ。
父と母の結婚は母方の祖母の強い要望によるお見合い結婚だった。
日本に帰国後、公職追放されていた祖父は処分が解けた後も
公職に復帰することはなかった。
金になっているのか、成っていないのかよく判らない芸事で身を立て、
祖母が亡くなったあとは、一年の半分位は外国を回る生活を送っていた。

母方の祖母の話では、祖父の上京前、父方の祖母と出会う前、
母方の祖母と祖父は恋仲だったらしい。
母方の祖父も早くに亡くなっているので、子供の単純な発想で
「なら、おじいちゃんと再婚しちゃえば良かったのに」と言った覚えがある。
祖母は、
「そういう事はできないんだよ…。それに、あの人には大事な仕事があるから…」
祖父の『大事な仕事』が何なのかは、結局、知ることは叶わなかった。
ただ、祖父の結婚も、朝鮮への移住も、曽祖父の強い意向が働いていたのは確かだ。
日本国内での厳しい差別から逃れるため……だけではなかったようだ。

一木氏は、俺たちの一族が受けてきた『差別』の実態について語り始めた。
父の『実家』があったのは、とある漁村の一角だった。
だが、その集落は、元々は山二つほど内陸にあった『村』が
『移転』してきたものらしい。


この『村』は、ある特殊な信仰を持っていた。
教義や儀式、念仏や礼拝など信仰の実体に関わるものは全て口伝で伝えられ、
元々文書等は一切残されていない。
一向宗の一派とも隠れキリシタンの一種とも言われるが、
口伝が失われて久しく実態はもはや知ることはできないそうだ。
移転して来る前にあった『村』が大きな災害によって全滅してしまったかららしい。
この村の宗教は、仏壇や仏像、十字架など形のあるものではなく、
家の中の決まった部屋の白壁に向かって『瞑想』を行い、
『神』の姿を思い浮かべて、それに対して礼拝する形を取っていた。
さらに、特殊な礼拝法の他に、この村には『人柱』の風習があったようだ。
ある特定の家から10年に一度とか、20年に一度といった感じで
『人柱』を立てていたのだ。

代々、その『人柱』を出していた家が『坂下家』らしい。
隣近所で祖父の葬儀に唯一参列した家だ。
坂下家は3年ほど前に最後の生き残りだった坂下 寅之助氏…
『寅爺』が亡くなって絶えてしまったが、代々父の実家との付き合いが続いていた。
祖父達が日本を離れるとき、長女はまだ10代で、結婚したばかりだった。
坂下家は、まだ若い伯母夫婦の後見をしていたようだ。
深い関わりを持っていた両家だったが、証言者によると、
父の実家は坂下家の世話をしつつ、
その逃亡を防ぐために監視する役目を負った家だったらしい。
以前、読者の方に『憑き護』に付いて質問を受け、回答したことがあった
(自分の身元がばれたかと一瞬焦りもしたのだが)。

俺が10代の頃、『寅爺』に連れられて坂下家の娘さんが遊びに来たことがあった。
耳が悪く、言葉も話せなかったが、とても綺麗な女性だった。
彼女は絵が上手く、不思議な力を持っていた。
こちらが考えていることや、前の晩に見た夢の内容を恐ろしく正確に、
いつも肌身離さずに持っていたスケッチブックに描いたのだ。
坂下家には、代々、何らかの障害と共に、
こういった不思議な力を持った娘が生まれるそうだ。
この女性は数年後、20代の若さで亡くなってしまったのだが……
姉の結婚式の時、不思議な力を持った坂下家の娘が『人柱』にされていた話を
俺は最後の生き残りとなっていた『寅爺』に聞かされていた。
一木氏の話は俺の記憶に合致し、それを補強するものだった。
坂下家は、いわゆる一種の『憑き護』の家系だったのだ。

父たちの帰国時、伯母夫婦は既に亡くなっていた。
米軍機による機銃掃射に巻き込まれて死んだと言う説明だった。
だが、一木氏の話によるとそうではなかったらしい。
伯母夫婦は、集落の若衆…証言者の父親達によって惨殺されたらしい。
帰国後、暫くして亡くなったという次女も、病死ということになっているが、
そうではなかったようだ。
昔から『実家』にいた頃の話をしたがらない父に尋ねても真相は聞けまい。
何故、父の実家はそれほどまでに恨みを買っていたのだろうか?
一木氏による証言者の話では、集落の元いた『村』が滅びる『原因』を作ったのが、
俺の先祖だった……らしいのだ。

証言者の話によると、『人柱』は村を見下ろす『御山の御神木』に
磔の形で捧げられていたらしい。
代々、坂下家の世話をしながら監視を続けていた俺の家の長男が、
人柱を捧げる役目を負っていたようだ。
だが、何代前だかは知らないが、人柱を捧げるべき俺の家の男が、
『人柱』の娘を連れて村から逃亡したらしい。
男は追手を何人も斬り殺し、娘を連れたまま逃げ果せたそうだ。
逃げた二人がどうなったのかは判らない。
娘を連れて逃げた男の父親は『御神木』を切り倒し、
『御山』に火を放ち焼き払った。
御神木を切り倒した男は、逃亡を図ろうとしたのか、
追手を食い止めようとしたのかは判らないが、
激しく抵抗した上で、片目を矢で射抜かれて死んだそうだ。
村の『名主』の子孫だという証言者の先祖が逃亡した男に斬り殺され、
その父親が御神木を切り倒した男を射殺したと伝えられているそうだ。


一木氏の話を聞いて、俺の背中にゾクリと冷たいものが走った。
隠していた悪事をいきなり暴露されたかのような、
異様な、そして経験したことのないような衝撃を俺は感じていた。


坂下家と俺の先祖の生き残りは、村を追放された。
両家の者は、山二つを越えた漁村に落ち延びた。
俺の先祖は医術だか薬草学の知識があったらしく、
流行病で住民が次々と死んでいた村を救い、村での居住を許されたようだ。
先祖が元いた村は、『御神木』が失われた以降、井戸や川が枯れ、
飢饉や疫病が続き、多くの村人が近隣の村へと逃亡したそうだ。
そして、ある年、嵐による大雨が続いた村は神木のあった山の
『山津波』によって全滅したらしい。
生き残りの者たちは村の全滅を『御神木』の祟りとして、
俺の先祖や一族を深く恨んだようだ。
滅んだ村の生き残りは、俺の先祖や坂下家を受け入れた村に次々と入り込み、
いつの間にか村を乗っ取っていた。

俺の一族と坂下家は生贄や人柱を捧げさせられることこそ無くなったが、
元のように監視され、集落内での差別と呪詛を一身に受け続けた。
それから何年、何世代経ったのかは判らない。
俺の一族には男の子が産まれなくなり、養子に貰った男の子も育たなくなった。
一族の女の嫁ぎ先でも似たような状況になったらしく、
断絶した家もあって『XX家の地獄腹』と言われていたそうだ。
証言者は、今でも俺たち一族を恨み呪っているらしい。
『恨み』が語り継がれ『呪詛』と『差別』が残った。

だが、正直なところ、何世代、何百年も前のことで人を差別し、
恨みを持続できる心情を俺は理解できなかった。
彼らの論法で言えば、一度も会ったことはないが、
二人の伯母を殺されている俺の方が恨みや呪いを抱く『適格』があるだろう。
だが、俺は、証言者や祖父の葬儀と調査の為に
二度しか行ったことのない田舎の人間を恨んだり呪ったりする程の
生々しい感情は持ち得ないというのが正直なところだった。
俺は、正直な感想を一木氏に伝えた。

一木氏は俺の言葉を肯定するように頷いたあと、さらに言葉を続けた。

「彼らが、君の一族に世代を超えて呪詛を向け続ける理由は確かにあるのだよ。
 切実な形でね」

問題の集落は近くに鉄道の駅ができ、国道が整備され、
過剰なほどの県道や市道が整備され、
元いた住民よりもここ2・30年ほどで流入した人口のほうが多いらしい。
最早、外見上は『被差別部落』の残滓を探すことも難しい現状のようだ。
だが、『部落』の子孫、俺たち一族と坂下家を追放した連中の子孫には
深刻な『祟り』が残っているそうだ。
『部落』の子孫たちには生まれつき外貌や知能に障害を負った者や、
常軌を逸して凶暴だったり乱脈だったりといった精神や性格に問題のある者、
難病を患う者が絶えないらしい。
家族にそう言った問題を抱えていない家庭はないと言えるくらいの頻度だそうだ。
それが何世代も続いて、俺たち一族への恨みや呪詛は今でも語り継がれているらしい。
そして、何よりも彼らにとって重大だったのは、神木が切り倒され山が焼払われて以降、彼らの信仰の対象だった『白壁の神』の姿を見ることが出来なくなった事だった。

一木氏は更に言葉を続けた。
一木氏や他の霊能者の見立てでは、
父と俺は、本来は生まれてこないはずの人間だったらしい。
これは、坂下家と俺の一族の背負った『業』のようだ。
両家の命数は既に尽きている……という事だった。
一木氏の言葉を俺は受け容れざるを得なかった。
認めたくはないが、坂下家は既に断絶し、
俺の一族も恐らく、俺たちの代で絶えるであろうことは俺も予感しているからだ。
嫁に行った姉は不妊持ちで既に治療を諦めているし、俺と妹は結婚の予定もない。
俺はこれまで碌に避妊などしたことはないが女を孕ませたことはなく、
アリサを喪った事故以来、性的には不能状態なのだ。

既に滅んでいたはずの俺たちの一族を今日まで存続させてきた理由があるとすれば、
それは、祖父母による朝鮮への『移住』だった。
『日系朝鮮人』として朝鮮の土になる、その覚悟が一時的にではあったかも知れないが、俺たち一族の『滅びの業』を食い止めたのだろうか?
そんな俺の思いを一木氏の言葉は打ち砕いた。

「君たちの一族の『ガフの部屋』には、本来、次なる魂は用意されていなかったのだ。
 もう君も気づいているのではないか?
 君の父親は、生贄の女と息子を逃した男の生まれ変わりだ。
 そして、君は生贄の女を連れて逃げた男の生まれ変わり…いや、そうではないな。
 生贄の女と逃げた男の生まれ変わりだ」

俺は、ぞわっと全身の毛が逆立つのを感じた。
『何を言っていやがる、このジジイ!ぶっ殺してやる!』
何故か俺は、激しい憎悪と殺意に囚われた。
そんな俺の激情を受け流すように一木氏は静かに言った。

「君には、断絶した記憶が有るはずだ。その断絶した時点の記憶を思い出すのだ」

俺は、激高を抑えるように、記憶の断絶点、
子供の頃、川で溺れて死にかけた時のことを思い出した。
すると、妙な記憶?……映像が浮かび上がってきた。
俺は、水の底から子供の足を掴み、その子供を水中に引き摺り込んだのだ。
子供の顔は見えなかったが、俺は子供の首を絞めていた。
何なのだ、このイメージは!

一木氏は言った。

「それが君だ。君は女の魂を宿した子供を殺そうとした、言わば『悪霊』……
 だが、君自身も女の魂…『悪霊』に殺されそうになったことがあるはずだ」

俺に瀕死の重傷を負わせ、アリサの命を奪った『ノリコ』のことか?
俺の体には異様な悪寒が走っていた。
アリサやほのか、その他の性同一性障害を持ったニューハーフの女性たちに抱いていた
不思議なシンパシー……
俺自身が妙だと感じていた感情の理由を俺は突き付けられた気がした。
一木氏は、更に追い討ちをかけるように言った。

「君は、朝鮮時代に君の祖父母たち一家に雇われていた
 『お手伝い』の女性の話は聞いたことがあるかな?」

「あります。父が話すとき『オモニ』と呼んでいる女性ですね。
 引き揚げの直前まで実の子のように可愛がってもらっていたそうです」

「その女性が、方 聖海(パン ソンヘ……Pの父親)氏の伯母に当たる人物だ。
 君達は知らないかもしれないが、非常に高名な呪術師だった。
 様々な呪術を用いたが、朝鮮でも今ではもう絶えて居ない
 『反魂の法』の数少ない実践者だった。
 君の祖父は『反魂の法』の対価として、その権力を用いて、彼女の弟一家を日本に…」

こみ上げてくる吐き気を押さえ込むように、俺は言った。

「もういい。十分だ。もう止めてくれ」

一木氏は、静かに言った。

「そうだな……私の話したいこと、話せることは殆ど話した。ここまでにしよう」


俺の両目からは涙が流れ、止まらなくなっていた。
木島氏の顔は青ざめ、何も言おうとはしない。
一木氏が部屋を出たあと、榊氏が俺の前に跪き、涙を流しながら言った。

「済まない…本当に、余計な…済まないことをしてしまった。
 私は、そして家内も夢を見ていたんだ……。
 榊家など継いでくれなくても良いから、君が孫の…奈津子の夫になって欲しいと。
 あの子が君のことを話さない日はないんだ……
 私も家内も君のことは本当に気に入っている。
 そして、あの子の願うことなら全て叶えてやりたい……だが、それは出来ない。
 あの子は私たちの全てだ。
 あの子を失うようなことは絶対にできない。
 勝手なことを言ってすまない、もう二度と奈津子にもチヅさんにも関わらないでくれ」

榊夫妻は木島氏に伴われて部屋を出ていった。
呆然とする俺に、和装の老女が語りかけた。

「私たちもね、まさかこんな結果になるとは思っていなかったのよ。本当に。
 貴方の一族が対峙している『神』の正体は私達には判らないの。ごめんなさいね。
 榊さんが是非あなたを奈津子さんの婿に迎えたいから、
 調べて欲しいという事だったのだけどね。
 あなたには特殊な『才能』があったから、それを把握するためにもね……。
 私たちも、あなたに榊さんの家に伝わる『術』を受け継いで欲しかったのよ。
 でも、調べれば調べるほどに……あなた方の一族は……」

俺は何も言えなかった。
そんな俺に、老女は言葉を続けた。

「……あなた、本当に人を好きになったこと、ある?」

「ありますよ。もちろん」

「貴方が人を愛することをこの『神』は許さない。
 あなたが愛した人は、その意思に関わりなくあなたから引き離されて行く。
 それが運命なの。
 それに抵抗してあなたと一緒に、側に居ようとする人は命を奪われるでしょう。
 この『神』にね」

「それが『呪い』なのか?
 …呪いなら、マサさんのあの『井戸』で……」

「それは、無理でしょうね…
 あなたに降りかかっているものは『呪い』の類ではないから。
 むしろ『愛』に近いのかも……」

「そんな……馬鹿な」

「いいえ。本当よ。
 あなたはこの国にいる限り、『定められた日』までは、
 どんな災厄に巻き込まれようとも生き残り続けるでしょう。
 周りの人が死に絶えるような事態に陥っても……
 物凄く強力な『神』の加護があるから。
 でもね、あなたの周りの人は、あなたの『加護』には耐えられない。
 あなたに愛されたら、一緒にいれば命を落としかねない。
 奈津子さんは、とても強い力を持った娘だから、
 命を奪われるまで抵抗してあなたの側に居ようとするでしょうから……
 でも、それは、榊さんご夫婦には耐えられないことなのよ。
 判ってあげて欲しい。
 ……そうでなくても、あなた自身が奈津子さんの側に居てあげられる時間は
 そう長くはないから……」

「あんたの言う『定められた日』とやらは近いのかい?」

「ええ。近いわね。
 ……ところで、あなたに夢はある?どんな望みを持っている?」

女の言葉に、俺の家族や木島一家の顔が浮かんだ。

「大した望みはないよ。
 とびっきりの美人でなくてもいいから、よく笑う可愛い嫁さんを貰うんだ。
 尻に敷かれたっていい。
 安月給でもいいから、昼間の普通の仕事に就いて、
 毎朝ケツを叩かれて満員電車に揺られて……
 朝から晩までこき使われて、疲れて家に帰るとカミさんと子供が『お帰りっ』て、
 迎えてくれて……
 子供は勉強なんて出来なくて良いから、ひたすら元気で、
 休みの日にはクタクタになるまで遊ぶんだ……
 月曜日の朝には、またケツを叩かれて……そんな生活がずっと続くんだよ。
 そのうち、俺もカミさんも爺さん婆さんになって、
 孫と遊んだり小遣いをせびられたりして……ああ……」

そう言いながら俺は自分の声が震えているのに気づいた。

「素敵な夢ね」

「だが、もう叶うことはない……そうなんだろ?」

「いいえ、夢は叶うわよ?
 いつもその夢を思い続ければ…寝ても覚めても想い続けて、祈り続ければ…。
 人間の精神の力は、人の『想い』は、翼のない人間に空を飛ばさせ、
 神界だった星の世界に生きた人間を送り込んだでしょう?
 人の心は、あらゆる不可能を可能にしてきたじゃない!
 どんな邪な願いであっても、願い続ければ必ず叶う…道元禅師も言っているわ。
 それが例え『神の意思』に反したとしても、生きて祈り続ければ必ず叶うわよ」

「随分とプラス思考なんだな。あんた、何者なんだい?」

「一木 燿子、さっきまで貴方と話していた一木貴章の姉よ。
 私の姉の祥子は、あなたの師匠、『マサ』の母親なのよ。
 長いあいだ患っていて、最近亡くなってしまったのだけどね。
 姉は、あなたにも逢いたがっていたわ。さっき言った事は姉の受け売り。
 姉は、あなたがさっき言っていたような人生を
 いつかは息子が送れますようにって、生前、ずっと祈っていた。
 マサも、多分あなたのような夢を抱きながら、
 これまでの人生を耐えてきたのだと思う。
 私は、姉の祈りを引き継いで甥の為に祈り続けるわ。
 貴方のことも祈ってあげる……それしかしてあげられないから。
 だから、あなたにも夢をあきらめずに祈り続けて……生き続けて欲しい」

「ありがとう。……お返しと言っては何だけど、俺に何か出来ることはあるかな?」

一木燿子は、俺に一枚のメモを渡した。

「これをマサに渡してあげて。
 生前、姉はマサに会うことを許されなかった……そういう『契約』だったからね。
 姉の、マサの母親のお墓の住所なの……必ず、お願いね」


俺は、木島家を出るとそのまま駅へと向かった。
ホームでマサさんやイサム達の待つ地元に向かう列車を待ちながら、ふと思った。

『随分、遠い所まで来たしまったんだな』

地元に戻ったら両親に電話して、久しぶりに実家に帰ろう……そう思った。


おわり 



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